第40話魔法使いBravery その9

ミリエルに怒られた。


「あーそうだっけ?なんか確かにそう言った気がするね〜」


ミリエルは俺のあっけらかんとした態度に頭が痛いようなそぶりを見せる。


「・・・・なんなのよ本当に」


「そんな深刻に悩むことなの?」


「当たり前よ!!異世界生物にとって契約者選びは異世界大戦で自らの運命を決める最大の選択なのよ!!!私だって未治に決めた時は知恵熱出そうになるくらい考えたんだから!!」


どうやら彼女たちにとって一番話したいことはそれだったらしい。俺は明日でもいいかなとか思っていたけれど。


「で?なんでこの子と契約するってことになったのよ?なんかあの契約者のことも知っていたみたいだし」


ミリエルは俺に質問をする。今度は俺が答える番か。


「あいつは俺の学校の・・・・クラスメイトだよ。たまたま同じクラスになっていっしょに遊んでたりしてたんだけどね」


「その、くらすめいとっていうのはよくわかんないけど、まぁ未治の"友達"みたいな人ってこと?」


「そう・・・だと思ってたんだけどね」


そう言って俺は俯いてしまう。まだあの時の感情は残ったままだ。少し心が痛い。


あいつとは短い付き合いだけれど特に波長があう仲だった。だから友達を否定されたショックは俺にとってとても重い。というかそもそも俺にとって初めての類のショックと言ってもいい。


「・・・・・」


珍しく暗い俺にミリエルもなんて声をかけたらいいかわからない顔をする。


すると状況がよく読めてないアイヒスが代わりにベッドから少し俺のところに近づいて質問した。


「あの、とりあえずなんで私と契約すると言ったのか教えて欲しいです。そこが重要です」


「んーなんだろう」


さて・・・・なんでだろう。ショックとか色々あったけど確かにアイヒスと契約することには関係がない。ではなぜ?アイヒスと契約すれば疾風がこの子を倒さずに済むから?なぜそんなことをした?なんで俺は疾風を妨害するようなことを言ったのだろうか?


んーモヤモヤする。こんな俺の感情・・・に名前をつけるとすれば・・・・




「・・・・・・ムカついたから?」



「私そんな理由で勧誘されてるです!?なんて契約者ですかあなたは!!」


なんかすごい顔して怒られた。


「だってムカつくじゃん!?せっかく友達が思いつめた顔してるから何か力になれるかもしれなかったのに完全拒否だよ!!ムカつくじゃん!!そうだよ!ムカついてんだ俺は疾風に!!だからわざと妨害するためにアイヒスと契約するっつったんだよ!!なんだよいつも澄ました顔して一人で背負って!!ヒーロー志望か!!」


「知らないですそんなこと!!私と契約することになーんも関係ないです!!」


「あるんだよ!!・・・・多分!!」


「多分ってなんですか多分って!!そんな曖昧な理由で私と契約するなんて絶対嫌です!!お断りです!!そもそもあなたは変態なので元からお断りです!!」


「そんな言い方ないでしょ!!・・・・このチビ!!」


「あー!!今言ったです!!言いましたです!!私の逆鱗に見事に触れてくれやがりましたです!!覚悟するです!!私の叡智の結晶によって消し炭にしてやるです!!」


「やれるもんならやってみろやこの一言多いチビ!!お前なんて俺の握力20キロで頭を粉々にできるんだからな!!一瞬だからな!!リンゴとかはできないけど!!」


「はんっ!馬鹿馬鹿しいです!!握力20キロじゃ何にも潰せないです!!私よりも低いです!!雑魚です!!女みたいです!!」


「なにおーーーー!!!」


「がるるるるるるるるるる」




「ねぇ、そろそろ、天使の時代焼くわよ?」



「「・・・・・ごめんなさい(です)」」


ヤバ、天使様がお怒りだった。やはり神の尖兵は最強でした。







数分後


「・・・・落ち着いたかしら?」


「うん、本当に死ぬかと思ったからそんな殺気に近いオーラ出さないでミリエル?」


「ガクブルです・・・・・」


「誰が出させてると思ってるのよ・・・・」


ひとまず俺とアイヒスの最後の方何を争っているのかわからなかった言い争いはミリエルの慈悲?によって平定された。ちなみに今のひと騒動でアイヒスはミリエルのことが少し苦手になってしまったようだ。気の毒に(他人事)


「ま、いいけどね。未治の調子がいつもの通りに戻ったし」


「あっ・・・・確かに」


そうだ、さっきまでモヤモヤしていて何が何だかわからない不安を感じていたはずなんだ。それが一度感情に名前をつけた拍子にどんどん疾風に対する怒りがこみ上げてきて・・・・・そこからはむしゃくしゃしてなぜかアイヒスと言い争いしてしまったんだ。


なんともよくわかんねぇな俺は。気づいたらモヤモヤなんかとっくになくなってむしろ疾風に対してこのやろーっ!とかおもってるんだから。


俺はそんな自分に少し苦笑を漏らす。アイヒスには怪訝そうな顔をされてしまったが、ミリエルはどうやら安心してくれたようだ。


俺は一度ほっぺをバシッと叩いた後アイヒスに向かって威勢良く告げる。


「よし。ではなぜ俺がアイヒスと契約しようと言ったのかを説明しよう」


「え?さっきムカついたからとか言ってたではないですか?」


「それはお前の言っていた通り関係のない理由だっただけだよ。アイヒスはもうあのドラゴンに追い回されたくはないだろ?だから俺がお手伝いしてやろうってわけだよ」


「お、お手伝いって・・・・まさかあの"龍"と戦うつもりです!?」


アイヒスは目ん玉が飛び出る勢いで驚く。


「あったりめーよ!!あいつには一言言ってやらないとつまらないからね。一度俺の心配の気持ちをわからせてあげないと」


「そっ、そんなの無理です!!・・・・私の魔法は何一つ効かず、そして"龍"の一撃はあたりを壊滅させるほどの威力なんですよ?そんな怪物いくら"天使"様がお一人いるとしても無謀です!!」


「なんでここで断る!?」


俺が威勢良くあのドラゴンを倒そうと誘ってみたらまさかの乗ってくれないって・・・・・ここは一緒に倒す流れでしょ。


「じゃあいいのかよ。やられっぱなしのまま次疾風たちに会うかもしれない恐怖に怯えるだけでお前はいいのか?」


「・・・・・考えてみれば、この世界に来て早々に"龍"と遭遇し、狙われてしまったのが悪いです。まずは"小鬼"とか"犬鬼"とかで肩慣らししないと本気でないです」


「いや、別にレベル上がるわけじゃないんだから変わんないでしょ。しかも本気でないのは契約者がいないからなんじゃ・・・・」


異世界大戦に某RPGみたいな成長要素なんてないからね。


「ともかく私の力ではあの"龍"に勝つことなど有り得ないです・・・・・」


うーんとにかくネガティヴ思考だ。


しょうがない。ここはひとつ焚き付けてみるか。


「はぁ、そんなもんかよ"魔法人"は。こんなことで怖気付く程度では100位なのも納得できるなぁ〜」


「なっ!?また100位と!!さっきの反省はどこに行ったです!?」


「えーなんのことかなー?」


「っ!?この!!」


アイヒスは一瞬で手を俺に向け、エネルギーらしきものを生成しようとする。だが、俺はそれに臆することなく続ける。


「だってそうでしょ?君は目の前の壁に立ち向かえない。根っからの弱者なんだよ。君はドラゴンと戦わないことが懸命な判断として捉えてるかもしれないけど、はっきり言ってただ怖いものから逃げてるのと何も変わらない。嫌な思いしたくないから何も干渉しないのと同じだよ、君の考えは」


「ッ!好き勝手にそうやってあなたは!!・・・・私のこと何も知らないくせに!!」


「ああ、知らないさアイヒスのことなんて。ただ俺から見たらアイヒスはそう映るんだよ。なぁアイヒス、君は自分より弱いやつに力を誇示するためにこの世界に来たのかい?」


「ッ!違います!!私は誇り高き"魔法人"、正当なる地位に上り詰め、さらなる高みを目指すために私はここにいるのです!!だから決して罵倒するもの、馬鹿にするものを許さないです!!あなたのように!!」


アイヒスの手にはおそらく魔法の元となる光が作られていた。これを食らえば俺はひとたまりもないだろう。


だが、俺の言葉は止まらない。


「ふーん。じゃあ疾風たちは?」


「ッ!それは!!」


アイヒスはとっさに言い返せずにおし黙る。同時に手のひらの光もしゅーっと縮小して消えてしまった。


「あいつらもきっと君のこと取るに足らないやつだと思ってるね。疾風にとってアイヒスはただのポイントでしかない。君はそんな疾風のことも許さないんでしょ?」


「クッ!」


「でも君はあいつらからは逃げるんだろ?俺みたいななんとでもなる存在のことを許さないとかいうくせにさ。そういうのムカつくんだよ本当に。全く・・・・舐められたものだよ」


「・・・・・・・・」


「あーあ。せっかくいい契約相手が見つかったと思ってたのに、こんな逃げてばっかの"小鬼"よりも弱っちい種族とは契約しても意味がなもごもが」


「はいはい、そこまでよ未治。これ以上はやりすぎ」


俺がとどめの言葉を述べる前にミリエルが俺の口を塞いでしまった。というか息できない。


「・・・・ぷはっ。ちょっとミリエルなんで止めるんだよ・・・・・ってあちゃ〜」


俺はアイヒスを罵倒するのに集中していたせいかしっかりアイヒスを見ていなかった。




アイヒスは泣いていたのだ。




「・・・・・そんなの・・・・・ぞんなのわあってるてず・・・・・グスッ・・・・でも・・・・・わたしはもう"龍"のまえにだつごどは・・・・こあくで・・・・もう・・・・・でも・・・・そんなじぶんは嫌です。いやなんです・・・・でも・・・・」


それは自分の弱さを悔いるような、悔し涙だった。アイヒスは俺の言ったこと全部わかっているのだ。わかっていた上で、それでも言い返すことしかできなかった。自分の弱さを隠すことしか、アイヒスは自分が保てなかった。


悔しかったんだ。苦しかったんだ。辛かったんだ・・・・・何やってるんだ俺は。アイヒスだってあの"龍"に襲われて不安に思っていたんだ。それなのにそのことをあんまり考えずに、俺は・・・・


「はい。これで涙と鼻水拭きなさい」


ミリエルはアイヒスの側によって俺がしでかしたことの後始末をしてくれていた。アイヒスは怖がることなくミリエルが取り出したティッシュを手にとって顔を拭いている。


「・・・・・すみません。わたしなくつもりなんかなかったです。あなたにもあやまるです」


「いや、俺の方こそごめん。言いすぎた」


俺が謝ると部屋は誰も喋らず静寂が支配した。なんとも気まずい空気になってしまった。少なくとも俺からは今話しかけられない。


それを察してかどうかはわからないが、ミリエルはアイヒスに話しかける。


「アイヒスの気持ち、私もわかるわ。わたしだって最初未治と出会う前は防戦一方で、それがとても悔しくて涙が出たわ。だけどね、そんな私一人じゃ勝てない相手でも未治と共に戦って見事勝利することができたの」


「ふぇ?"天使"様が苦戦するような相手なんているですか?」


「そりゃいるわよ。基本的に私たち"天使"の強さは数にあったからね。あの"龍"だって私一人じゃ勝てないと思うわ・・・・だけど未治となら勝てると思ってる」


「・・・・どうしてそんなにこの人間を信じているです?」


アイヒスは純粋にわからないと言うような表情でミリエルに問いかける。ミリエルはアイヒスに向けて本当に優しい声で、まるで我がものを自慢する子供のように答える。


「未治はこう見えて天才なの。未治の指示には不思議となんでもできるような、力が湧いてくるような不思議な感じになる。まるで未治には未来が見えているような、そんな絶対な安心感を持った策をいつも考えることができるのよ。だから今回だって未治ならきっと"龍"を必ず倒すための策を考えてくれるって信じられる・・・・正直たまに変な時もあるけど、未治は私にとって最高のパートナーなのよ」


「"こう見えて"と"たまに変な時もある"が余計ですよミリエルさーん」


これじゃあ褒められてんのかけなされてんのか微妙なラインですよ。ミリエルさん。


「そう、ですか・・・・あなたがそこまですごい人間だったとは思いませんでした」


アイヒスはそう言ったっきり顔をうつむかせてしまった。俺は少し焦って明るめに話す。


「あ、なんてったってこれだけがとりえだからなぁ〜。というかドラゴンの攻撃から逃げられたんだから俺の指揮官力はお分りいただけるはずなんだが」


「あれは変な策すぎだから却下よ」


「ええ〜いい策だと思うのにな〜」


「やだ。私の矜持がそう言ってる」


「そんなの捨てちまおうよ〜」


「・・・・あ、あのっ!」


アイヒスは少し戸惑いながらもしっかりまっすぐ俺を見て話しかけてきた。


「あなたと契約するという話・・・・少し考えさせて欲しいです。ちょっと気持ちの整理したいです」


「・・・・別にいいよ。ただ俺はおそらく明日疾風と戦うと思う。俺が仕掛けなくとも向こうから来るだろうしね。その時アイヒスはどうするのか、一緒に戦うのか、それとも逃げるのか、ちゃんと考えといて・・・・考えた末にアイヒスが何を選ぼうが、考え抜いた結果なら俺は何も言わない。むしろその意見を俺は尊重するよ。ああ、明日俺は日中いないけどミリエルと一緒にこの家居ていいから」


「・・・・・・・・・はいです」


アイヒスはそう言ってベッドに寝転がってしまった。あれ、このまま寝るんですか?


「ああ、私のベッド・・・・」


「いやお前のじゃないし。しかもミリエルは俺のベッドで寝たことないでしょ」


「言ってみただけよ。『空間転移ワルプ・ゲルト』」


ミリエルがそう言うとベッドの壁の方に突然赤い魔法陣が浮かび上がってきた。


・・・・ミリエルは普段どこで寝ているのかというと、俺の壁に勝手に作り出したこの魔法陣の中なのである。どうやらそこに独自の個人部屋が用意されているらしく、ミリエルはそこで寝ているのだそうだ。まだこの中に入ったことがないので説明がなかなかうまくできないのであるが、まぁうちの壁に別空間へ飛べるゲートを勝手に作ってしまったと言うわけだ。


「それじゃあおやすみ未治。その子のことよろしくね?」


「あっちょっと待って・・・・って行っちゃったし」


ミリエルは俺に最後の挨拶を告げるとすぐに魔法陣をくぐって姿を消してしまった。全く、アイヒスを俺一人に任せるとか正気かよ?


「はぁ・・・・・アイヒスも眠っちゃってるし・・・」


見ればアイヒスはすでに寝息を立てて寝てしまっていた。これでは俺の寝場所がないのだが?というか俺のベッドなのだが?


「おーい起きてくれー・・・・・・だめだ。よほど疲れてたんだな」


仕方ない、諦めて・・・・端の方で寝るか。


これはしょうがない。この家は玄関から見て右側の机と左側のベッドがほとんどを占めているのだ。ベッド以外に俺が四肢を広げて寝られる場所など存在しないのである。


安心したまえ諸君。私はもう疲れて早く寝たいだけなのだ。だからスケベなこととか一切考えてなど居ないのである。お分かりかね諸君。誰に向かって言ってるのかわからないけど諸君


俺はアイヒスが小柄なせいかそれほどベッドの面積を支配していないことに感謝しながらもベッドの端の方で横になった。


「・・・・・明日は大変だな」


まぁとりあえずは、やることをやるだけだ。

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