暗い世界に花束を

第54話 16-1暗い世界に花束を

―目を開けて、ジャン―


 ハイデの言葉。これは、どちらのハイデだろうか。


―私だよ、大丈夫、もう、大丈夫だから―


 恐る恐る、目を開ける。

 散らかった部屋、ベッドの上、いつもの天井。


「ゆ……め……?」


 手を伸ばし、天井にかざす。紛れもなく、潤の手である。身体を起こし、混乱したままの頭を振って、癖でエナジードリンクに手を伸ばした。


―ダメ‼―


 ハイデの言葉が流れてくる。


「夢じゃない……⁉」

―それ、飲んじゃダメ‼―


 着ていた服の、首の後ろを掴まれ強引にベッドへ引き戻される。バランスを崩して倒れ込んだ目の前に、白い髪がゆらりと動く。


「……ハイデ……⁉」


 そこに居たのは、ハイデだった。


「なんでここに⁉」

―こんなの、終わらせなきゃダメだよ―


 涙目で訴えかけてくる。手を伸ばし、頬に触れた。そこにハイデは、本当に存在する。


「……なにか、知ってるのか?」

―…………―


「知ってるんだな、全部」

―……私を、信じてくれる?―

「あぁ、信じるさ。ハイデはいつも」


 ピンポーン。

 インターホンの音が、潤の言葉を遮った。


「来たか……」


 身体を起こす潤の手を、ハイデが握る。なぜだかそれが、ひどく懐かしく感じた。


―覚悟を決めて、ジャン。思い出して、ジャンなら大丈夫だから―


 頭が痛い。


「全てを知るには、それ相応の覚悟が必要、だよな」

―…………うん―


 苦しそうな顔をするハイデ。その手を引いて、玄関の鍵を開ける。


「お届けものです、立花潤くん」


 いつもの制服を着た、いつもの男が、真っ黒の空間で箱を抱えて立っていた。

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