第50話 14-5路地裏の深淵
「……あれ?」
ジャンはぽつりと声を出す。
時刻を見ると、間もなく午前三時。一度追い出されてから再ログインして、まだ1時間も経っていないはずだった。
「なんか……おかしい。いや……そうか」
最近は夢にハイデが出てくる事も多く、ゲーム内でも頭を使う。疲労が重なりすぎているのは目に見えてわかっていた。限られた時間とはいえ、ゲーム内でも命がけの冒険を強いられているのだ。クロックアカウントの為とは言え、ここまでする価値があるのかと問われれば、ジャン、アウルにとってはそれだけの価値があるとしか言えまい。
気になる事は他にもあった。頭を整理しようと、スオウに電話をかける。しかし、なかなか出る気配がない。十五分ほど経って、ようやくスオウは応答した。
『わりぃわりぃ、風呂入ってた』
「はぁぁぁぁ、呑気でいいなお前は」
安堵から毒を吐く。
『まぁまぁ。とりあえずお疲れさん。どうだった? 今日は』
「腐るほど大変だった」
『なんだよそれ。何があったんだ?』
起こった事を、手短に話した。
ユリィと共にルナシスを追いかけた事、デバッグ現場を見た事、ルナシスを倒してしまった事、ユリィとの間に食い違いがあった事、ハイデが消えた事。
全てを話し終えた頃には、外はもう白んでいた。
『なるほどねぇ……その、ハイデちゃんが消えたってのは気にかかるな』
「だろ? 運営からチャットが来た時クエストの確認もしたんだけど、特に変わった形跡もなかったし……」
『……その、もう一つの街ってのがあったろ?』
「あぁ、増えた方のマップか?」
『そうそう。墓地がその街より西にあるってなら、一度寄ってみたらどうだ?』
「寄り道してる場合じゃねぇだろ、ハイデは魔法アレルギーだぞ」
『お、おう……いや、でもありうるだろ、そういうイベントなら隣街まで行ってる可能性も。だってお前と出会った時も、山脈越えてたんだろ?』
初めて出会った時の事を思い出す。暑苦しく、砂ぼこりの舞う炎天の街でたまたまぶつかった少女、ハイデ。彼女の笑顔を思い浮かべる程に、胸のあたりが締め付けられ、緩やかな頭痛に犯される。
「……行くか。そうだよな、行かなきゃわかんねぇや。ありがと、方向性が決まった」
『気にすんな。さて、俺も一仕事してくるかね』
「なぁ」
『あ?』
「……なんでもない」
『そうか?』
そう言ってスオウは何かの作業を始め、それを聴きながら他愛もない話をしつつ、違和感を引きずり潤は深い眠りについた。
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