第23話 6-2失声の少女ハイデ
「お待たせ」
『おっそーい‼ なんで毎回時間を合わせてるのに、ジャンくんだけ遅いのよ』
ロッドを腰から下げ、フードを脱いだユリィがジャンの元へ駆け寄る。
『いい時間じゃねぇか。ほれ、依頼人のおやっさんもそろそろ家から出てる時間だろうよ』
カブトに至っては、防具が重厚すぎて顔も見えない。ただの鉄製ゴーレムがぎこちなく動き、籠った声で笑っているだけのように見える。
『何なら鍵開けて強引にクエスト完了報告も出来るんだけどなぁー』
クロは身軽な軽装だが、随所に紐やベルトが増え、いくつもの小さなダガーが見え隠れしている。
『そういうの、好きじゃない』
カブトの足元にいたロベリアは、やけに大きな帽子の隙間からジャンを見上げていた。
そしてジャン自身も、片側にショートソード、片腕には小ぶりな盾を携えている。
この三日、何度もトラウマになりかけながら、ようやく戦闘にも慣れてきた。特に五感が有効になっているジャンはステ振りの方向性を変えてバフ系スキルを担当するようになった。同じくユリィは当初の予定通りヒーラーとして仲間を回復させる事に専念していた。
アタッカー予定だったジャンが方向性を変えた事で多少効率は悪くなった気がするが、その分クロが攻撃系スキルをどんどん覚え、ロベリアは防御力を捨てて魔法攻撃に全振りし範囲魔法を使うようになったおかげで首尾は悪くない。カブトもアタックに回ろうかと話し合ったものの、絶対に攻撃を受けるわけにはいかない人間が二人もいる為、防御に徹して貰う事で意見が一致した。
「それじゃ、まずは報告に回ろうか。サブクエも合わせて回りつつ、もしかしたらどこかでメインクエフラグが立つかもしれないね」
メンバーに支えられながらも、ジャンはリーダーとして最善を尽くそうとしていた。
『メインクエの発生条件もよくわからねぇし、手あたり次第試すしかないってのがしんどいよな』
「クロは攻略サイト見ないとゲームできないタイプ?」
『そうだよ、課金だって立派なスキルだろ?』
そう言って振った手に光るブレスレット。運営に問い合わせたところ、デバッグで使うつもりはなかったが、実装予定の課金アイテムがいくつかあるとの事で、試験的に課金させてもらったのだ。
「やっぱりトレードは出来ないみたいだし、課金は慎重にね? たまたま装備できるアイテムだったから良かったけど」
『月額制のオンゲだと思えば安いくらいだろ? それに、ジャンの方が課金してる』
にんまり笑ったクロに対する嫌悪感は、もうなかった。
「僕はガチャじゃなくてアイテムを買っただけだからいいんだよ」
『課金は課金じゃねぇか』
笑って誤魔化す。
クロが課金したのは、九つの宝箱から一つを選ぶスクラッチタイプの装備ガチャだった。引き当てたブレスレットは補助系の装備品で、敵のレアドロップ率増加と回避力が上がるという物。回避と言っても、実際には敵が空振りをする確率が跳ねあがった。
おかげで全員の装備もかなり潤い、不要なドロップ品を売却して得たリンもかなり貯まっていた。さらに、レアドロップがクリア条件になっているサブクエストの進み具合も早くなったように思える。
一方ジャンは、ゲームプレイを補助するアイテムショップでの課金をした。インベントリであるポーチを大きい物に変更し、一時的に経験値を増やすアイテムや、同時に受注できるクエスト数増加などである。
『さて、次のフラグ探しも兼ねて、報告にまわりましょう!』
ユリィの声を合図に、一行は宿を後にした。
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