失声の少女ハイデ
第22話 6-1失声の少女ハイデ
夕陽の眩しさで目が覚める。
うっすらと目を開け、時計を見ると既に夜7時を半分以上過ぎていた。
「やべぇ……そろそろ起きねぇと……」
ベッドから出て、エナジードリンクを取りに玄関へ向かう。冷蔵庫の中には残り一本しかなく、横に放置していた段ボールから小箱を開け補充した。
「この箱が半分切ったら、また注文するか……けどなぁ……」
ボトルの蓋を開け、一気に飲み干す。空になったボトルを適当に投げると、脱ぎ捨てた服がクッションになり鈍い音を立てボトルが埋まった。
「クロックに戻れない以上、収入もないんだよな。貯金はまだ余裕があるけど……これから戻ったって、また金が入るようになるまで、どれくらいかかるんだろう……」
クロックのアカウントがロックされてから、既に三日が経っていた。目覚める度に、何度も自分のコテハン【アウル】とロックの情報を検索する。クロックと隔離された掲示板やブログでは、アウルの行方を心配する声もいくつかあったが、徐々にアウルへの攻撃的なコメントも増えてきたように思えた。
本人のいない場所で、匿名という盾を持った人間は好き勝手言い散らす。責任を問われにくい場所だからこそ、それが本音だとアウルは考えていた。
スオウに取材をしている記事もいくつか見たが、当たり障りなく「帰って来る」とだけ言い続けていた。そしてその記事を武器に、心ない匿名の誰かが邪推をして、根も葉もない噂を立てる、それを真に受ける人間も、少なくはないだろう。
「はぁ……」
この三日で変わった事は他にもある。パソコンの前に座り、以前はクロックがほとんどを占めていたディスプレイに大きく表示しているのは、何の思い入れもないフリーメールツール。
あの日、スオウに相談しつつ適当なフリーメールを作成し、ユリィにメールを送った。ユリィから教えられたアドレスで、パーティメンバー全員と現実世界でも連絡が取れるようになった。
「あー、あーーー。よし……考えてる時間はない、行くか」
声の高さを調整し、デバイスを装着する。椅子の上で楽な姿勢をとり、フローワールドを起動させた。
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