始まりの街ラチュラ
第14話 5-1始まりの街ラチュラ
『いらっしゃい、旅人さんかい?』
愛想のいい奥さんが笑顔で対応する。
「はい、回復薬を揃えたくて」
『そうかいそうかい。ここは始まりの街ラチュラ。沢山の人がここから旅を始めるのさ。貴方達の初めの一歩をサポートする道具、いろいろと揃えてるよ』
そう言うと、奥さんは商品の入った箱を指さした。
ガラスがはめられたショーケースの中には、手のひらに収まる程の小さな小瓶がいくつも並んでおり、商品名と価格がラベルに貼られている。
「なるほど、こんな感じで買えるんだね。この様子だと重量や空き容量に限度がありそうな気がする」
『んでも、おいらは重い物得意だぜ、体格で差が出るってぇ事か?』
カブトの言葉に、ロベリアが続ける。
『あたし達は感覚がないから平気。ジャンとおばさんが問題』
『あら、それならきっと感覚バランスが調整されてるはずだわ。ジャンくんと私では重みの感じ方が違う、とかね』
おばさん発言は無視して、ユリィは薬瓶をまじまじと見ていた。
「んー……回復アイテムは全員に持ってもらいたいんだよね。いつも庇えるとは限らないし」
ジャンの何気ない独り言に、奥さんが反応した。
『そうねぇ、最近じゃこの辺りも物騒になってきたから、買える限り持っておいた方が良いわ。あ、アタシが言ったんじゃただの商売になっちゃうわね』
わかっていても、毎度驚かされるNPCの反応。ただの独り言ですらキーワードを拾うのか、自然な会話に繋げてくる。一体いくつの会話パターンを実装しているのだろうか。
『すっげぇなぁ……最近のモブってのは……』
感心するカブトの言葉に、またしても反応した。
『あらやだ、もう知ってるの? そうなのよ、実はここ最近、北西にある洞窟からモブリンが大量発生して街に来ちゃうの。この街には自警団があるとはいえ、一般人の私達にとっては死活問題よ。あのあたりなら子供の足でも行けちゃうし、襲われたらひとたまりもないわ』
よくわからない繋がり方をしたが、どうやら「モブ」というワードが引っかかったらしい。
『……信じられないほど安直な名前だな』
クロの呟きはキーにならなかったようで、奥さんは聴こえていない様子だった。
『フラグ』
ロベリアがジャンの服の裾を掴み、引っ張りながら言った。たった三文字だが、その意図は十分に伝わった。
冒険手帳を手に取りながら、奥さんに続けて言う。
「奥さん、それ、僕達が見てきますよ」
『本当? 助かるわ。でも気を付けてね、いくらモブリンでも油断すると痛い目に遭うわよ。もし数を減らしてくれれば、心ばかりのお礼くらいはさせてもらうから。また顔を出してちょうだい』
そう言うと奥さんは、出していたショーケースを仕舞った。
手帳を開くと、メニュー画面が表示される。クエストタブに【モブリン大量発生】というタイトルが表示されている。ロベリアの言う通り、この会話がクエスト受注のフラグだったらしい。クエスト番号M01と書かれている事から、これが最初のメインクエストのようだった。
『結局何も買わなかったわね』
ユリィの言う通り、ジャン達の姿は目に入っていないようだった。
『まぁ市場だし、どこか別の店でも買えるんじゃないか?』
「そうだね、たぶん、だけど……あの、奥さん、アイテムを……」
『なんだい、もう終えてきたのかい?』
「……いや、なんでもないよ。もう少し待ってて」
『気を付けてね、危ないから』
ジャンの問いかけにそれだけ答えて、ショーケースを出してくれる様子はなかった。
『終わるまでここじゃ買えない』
『んじゃ、あっちはどうだ? 見るからに装備を揃えてますって感じだが』
カブトの指さす先には、大きな盾に剣をクロスさせたモチーフの看板が立っている。露店ではなく店舗を構えているらしい。
「装備の方が高くつきそうだけど、入ってみるしかなさそうだな」
クロが先に歩き始め、一行はそれに続いた。
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