第23話 後悔先に立たず

「何だったんださっきの奴ら?」


「さあ。嘘みたいに強かったが、誰か知らないのか?あれだけの強さなら、ギルドに入る前に噂くらい立っていてもおかしくないはずだ」


「そんな噂聞いたことがないぞ!どっかのド田舎からでも出てきたんじゃないのか?」


「なら、金貨二百枚なんて用意できるはず無いでしょ!どっかの金持ちの息子に決まってるわ!バカなの?」


「何だとてめえ!」



 二人が出て行った後、ギルドではそんな会話が飛び交っていた。そんな中で、二人に返り討ちにされた男は壊れた机の上にまだへたり込んだままだった。


「・・・・・・・・・」


口をあんぐりと開けて呆然とする男に、心配そうに周りの冒険者が近寄った。


「大丈夫か? かなり吹っ飛ばされていたが」


「あ、あいつら半端ねえ・・・・・」


投げ飛ばされた男は、漏らすようにそう言った。口はまだ開いたままだ。


「そりゃそうだろ。このギルドでも十本の指に入るお前を投げ飛ばしたんだからな。誰が見ても、ただ者じゃないことは確かだ」


「そ、そうじゃない!」


男は取り乱して否定した。


「そ、そうじゃないんだ! アイツ、俺を吹っ飛ばしたアイツのレベルは、そんなもんじゃなかったんだ!」


「だから、そんなことはわかってるよ。レベル45のお前を投げ飛ばしたんだから、レベル50くらいはあるとみた。多分、ここに来る前に相当経験値を積んでるな。まあでも、ああいうタイプはすぐに帝都とかのもっと大きなギルドにいくだろうから、お前もそんなに気にするな。すぐいなくなるさ」


「違う!」


男は声を張り上げて叫んだ。


「アイツ! レベルが40しかなかったんだ!」













この世界で得られる経験値は、大きく分けて二種類に分けられる。



一つは、筋トレや体力増強などで肉体の持つそもそもの能力や、体を扱う技術を向上させる事によって得られる身体経験値。


もう一つは、例えばモンスターや人間との戦闘によって得られる、文字通りの経験値だ。



前者を得る方法は、すでに述べた筋トレや体力増強の他にも、例えば射手ならば弓の練習、剣士なら剣の練習といったものが上げられる。


後者を得る方法は、言うまでも無く実戦だけだ。



これからは、前者の経験値で得たレベルを身体レベル、後者で得られたレベルを経験レベルと呼ぶことにする。




さて、ここで少し思い出してみよう。以前に、冒険者のレベルの平均は30であると言ったことがある。この中の経験値の内訳はどうなっているのか?


答えを言ってしまうと、およそ半々である。つまり、普通の冒険者は身体レベルが15、経験レベルが15という具合の内訳なのだ。



ここで問題となるのが『総レベルが同じ時、身体レベルと経験レベル、そのどちらが多いときにより強いのか?』である。


例示するなら、身体レベル20、経験レベル10のAさんと、身体レベル10,経験レベル20のBさん、そのどちらが強いのか?



答えは『Aさんの方が強い』である。



つまり、身体レベルの方が経験レベルより戦闘面において優れているわけだ。想像してもらえばわかるだろう。


いかに実戦経験を積もうとも、単純な基礎能力で上回る相手には勝てない。



ヤンキーがどんなにケンカをして実戦経験を積もうとも、身体能力で遙かに上のクマには勝てないように、


ヤンキーがどんなに実戦経験を積んでも、戦闘技術で遙かに勝る柔道の達人には勝てないように、


単純な肉体の強さや、戦闘の技術の方が、戦闘で得た経験値を遙かに勝るのだ。




では、話を戻そう。

男はなぜ、自分よりもレベルの低いケンに投げ飛ばされたのか? 答えは単純、ケンの身体レベルが男の遙か上であったからだ。


身体レベルに大きな差があるならば、例え総レベルで負けていたとしても十分相手を投げ飛ばすことが出来る。


そして、それがはらむ最も重大な事実、それは『ケンの経験レベルは未だ少ない』と言うことだ。

これは、新入りの冒険者であるケンにとって、とても重要な情報である。


ギルドに入れば、依頼をこなしていくうちに嫌でも経験レベルは上がっていくことになる。


実際、ほとんどの冒険者は身体レベル10~12程度でギルドに加入し、そこから18~20程度の経験レベルを得て、晴れて一人前と呼ばれるに至るのだ。(二人はそれを知らなかったため、レベルを冒険者の平均30くらいにしないといけないと思っていた)


つまり、単純に考えればケンは、このギルドで総レベルが60に達することも十分にあり得るのだ。













「レベル60って・・・・・そんなの白金等級並みじゃねえか・・・・」


吹っ飛ばされた男をいたわっていた、鉄鎧を着た冒険者は驚きを隠せなかった。レベル60の人間など、この世界には数えるほどしかいない。



「お前の見間違いじゃないのか? 大体、そんな奴が何でこんな、たいしてでかくもないギルドなんかに・・・・」


「知るか! それよりヤバいのは俺だ! そんな奴らにちょっかい出しちまうなんて・・・・・俺はもう終わりだ・・・・・」


吹き飛ばされた男は、両手で顔を覆って、見た目に似合わずシクシクと泣き始めた。


「お前、そういう所はここに来たときから変わらないよな・・・・・」


鉄鎧の男はあきれたようにシクシクと泣く男を見下ろす。


「まあ、全部お前の所為だからな。自業自得だ。そんなに怖いのなら、別のギルド、そうだな、田舎とかにあるギルドに移るか、それか冒険者なんてやめちまいな」


「そんなこと言うなよお・・・・・俺たち同期なんだから、そのよしみで代わりに謝ってきてくれよお」


泣きじゃくる男は捨て犬のような目つきで鉄鎧の男を見た。その風貌には、先ほど二人を襲ったときにあったような力強さは感じられない。


「そんな目で見ても無駄だ。自分でやるんだな」


鉄鎧の男が無情にもそう言い放つと、泣きじゃくる男はガックリと肩を落とし、よりいっそう泣きじゃくった。


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