第七十三話 鬼人族との出会い
それぞれ刀を構え向かい合っている三人は、みんな黒い髪だが目の色はそれぞれ違っている。
額から伸びた角は男性が黒色で女性は白。
服は全員袖や裾が長く色の違う布の服を着ており、胸に鉄の胸当てを着けている。
僕達がどうしてここに来たのかを説明しようか悩んでいる間に、三人は僕たちの行く手を阻むべく、道いっぱいに広がった。
そのままにらみ合いが続いて時間も経ち、僕は後ろの三人を守るように動きつつ様子を観察する。
左手には小ぶりな刀を両手に持った男の人。
髪は短く切りそろえられ、年は僕と同じ位に見える。
周りを警戒するように見回しているが、緊張しているのか息が荒く、顔や身体もこわばっている。
おそらくまだそこまで実践の経験がないのだろう。
右には、僕のよりも長い刀を構え、鞘を背中に担いだ男性。
こちらは白髪頭だが、師匠よりも少し若そうな壮年の男性。
この人も周りを見ているが僕への警戒は解かず、落ち着いた表情だが感じられる気配は相当なものだ。
この人は……かなり出来る――!
そして中央には……
僕を綺麗な顔でにらみつけている女性。
髪は背中まで長く、途中から紐で縛ってひとつにまとめている。
黒い目をしていてティアナよりも背が高い。
この女性もかなりの腕前だろう。
とりあえずヘイダル皇国の皇帝に対して約束した手前、
敵意が無いことを示そうと、両手を挙げつつ僕は鬼人族に近寄ろうとするが、その前に後ろの三人には注意を促しておく。
「三人とも、周囲の警戒を頼む」
その言葉で、さっきの不快な視線の事だと察した三人は小さくうなずき、すぐさま後方や左右を確認して警戒に入る。
僕はある程度まで近づいた後、止まって敵意がないことを示す。
「申し訳ありません。私はムミョウと申します。私がここに来たのは、あなた方と同じ鬼人族であるイットウ様からお前の進むべき道は龍の巣にある、そこにいる者に会って今後の進むべき道を聞けという言葉をいただき、はるばるバルターク大陸からここにやって参りました」
向こうを刺激しないように、話し方にも気を付け丁寧に語り掛けた。
「後ろにいるのは私の旅に同行してくれている者達です。皇国からの早馬でもあなた方にも伝わっているとは思いますが、我々は龍の巣へ向かい、そこにいる方から話を聞きたいだけなのです。我々は皇国の者ではありませんし、あなた方と戦うつもりもありません。どうか通していただけないでしょうか?」
話しかけている最中、イットウ様の名前を聴いた三人に、少なからず動揺が走ったのを僕は見逃さなかった。
「お前は……イットウ様の知り合いか……?」
中央の女性が尋ねる。
「イットウ様は、私の剣の師であるトガの師匠でした」
そう言って僕は腰の刀を鞘ごと抜き、両手で前に掲げ女性へと差し出す。
女性は自分の刀を収め、警戒しつつも僕から刀を受け取ると、鞘から抜き出して刀身を眺める。
「その刀は……我が師のトガがイットウ様から譲り受け、そしてトガが亡くなった後に僕が受け継ぎました」
「……そうか……ではイットウ様は今どちらに……?」
女性は刀を鞘に納めながら僕にイットウ様のことを尋ねる。
「師匠の話では……すでにイットウ様は病で亡くなったと聞いています……」
「――!? それはおかしい! イットウ様が既に亡くなっているのなら、なぜお前に対して龍の巣へ向かえなどと言えたのだ? 死んだ者が生きている者に言葉を残すなどあり得ぬのでは?」
女性が僕を言葉を疑うように尋ねる。
僕は頭を下げて答えた。
「信じていただけないかもしれませんが……私は以前賊との戦いで傷つき、意識を失って眠り続けていました。その時夢の中で、私は川を挟んで我が師と剣を打ち合うイットウ様にお会いし、お言葉をいただいたのです。私は……その言葉を頼りにここまで来たのです……」
女性は僕の言葉に押し黙ってしまう。
やはり……信じてもらうのは難しいか……
僕は真剣な表情をして三人を見つめ続ける。
しばらくの沈黙の後、壮年の男性が重い空気を変えようと口を開く。
「君の言うことはにわかには信じられない……だがイットウ様の言葉でわざわざここまで来たというならば……私は君を信じてみたいと思う……」
男性は女性の方へ振りむいた。
「キキョウ様、ここで話し続けるのも危険かと。早馬の情報にあった者達と合致していますので、とりあえずはこの者達を我らの集落までご案内した方がよろしいかと思います」
男性の提案にキキョウと呼ばれた女性はしばらく考えると、手に持った刀を見つめつつゆっくりと頷き、僕に刀を返すと二人に指示を出す。
「……そうだな、ではコタロウ、ムサシ、この者達を護衛しつつ、集落まで一度戻ろう。ムミョウ殿、我らは刀を抜いたままで申し訳ないが、現在やむにやまれぬ事情ゆえ許していただきたい」
恐らくこの周辺で起こっている事件の事についてだろう。
僕達は頷き、鬼人族三人の後をついて集落へと向かう。
前方は鬼人族がいるので、後方警戒のためレイと場所を変わり、後ろへ意識を集中させたが、集落までには特に変わったことやあのときの不快な視線を感じることもなく、無事たどり着くことが出来た。
集落はフォスターよりも広く感じ、周囲を木の板で作られた塀で囲っており、堀もかなり深くまで掘られていた。
城門が空けられ、中に入るとみんな額に角を生やした鬼人族だらけで一様に僕らのほうへ視線を向ける。
平屋の家や店も多く見られ、かなりの鬼人族がこの集落に住んでいるようで色々な所から声が聞こえる。
けれど……何か集落全体が暗い雰囲気に感じるのは気のせいだろうか……?
「まずは長のところへ行きましょう。そのほうが話は早いはずです」
ムサシと呼ばれた壮年の男性が向こうに見える一番立派そうな平屋に手を向け、コタロウと呼ばれた若い男性が僕達を先導して案内する。
中に入るとかまどや洗い場が一緒になった広い一室となっており、奥には高齢の男性が僕達を待っていた。
「ジュウベエ様……我ら三人は森の警戒より帰りました。その際、皇国からの早馬であった通り、四人組の人間達がこちらへ向かってきていたので、その者達と出会いここまで連れてきました。その中のムミョウという青年の話では、イットウ様に龍の巣へ向かえと言われたと……」
その言葉に老人がカッと目を見開く。
「イットウ……ああ――! 兄上は……兄上は生きているのですか――!?」
「いえ、このムミョウ殿の話では……すでに病で亡くなったと……」
ムサシさんから告げられた辛い事実にジュウベエ様と呼ばれた老人は涙をこぼし、それを見たキキョウが急いで駆け寄る。
「おじい様! 泣かないでください……」
「兄上……もう一度……あなたにお会いしたかった……うぅ……」
暫くの間、ジュウベエ様の涙が収まるまで静かに待ち続けた。
その後、涙を拭いたジュウベエ様に促されて僕達は床に座る。
「御見苦しい所をお見せして申し訳ない……イットウは……私の兄で……もう50年も前にここを去って行ったのです……」
悲しみ続けるジュウベエ様に対して、僕はここに来た理由を告げた。
夢の中でのイットウ様から言われた事や、魔王復活の可能性、そしてそれを防ぐ手立てが龍の巣にあるのではないかという話に、ジュウベエ様やキキョウなどこの場にいる鬼人族全員がじっと耳を傾けていた。
僕が話を終え床に座ると、ジュウベエ様がゆっくりと語り始める。
「そういうことでしたか……事情はよくわかりました」
「それじゃあ!」
「ですが……申し訳ありません。我が兄イットウの言葉であっても……あなたを今、龍の巣へお通しすることは……出来ないのです」
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