第三十七話 四天王との再戦 下

 いよいよ今日は期限の3日目。

 気力よし!

 体力よし!

 昨日のうちに秘策用の買い出しも終わっているので、後はギルドに向かうだけ。

 出発前にと、布袋の中身を取り出して確認している際、ふとずっしり中身の詰まった袋を手に取った。

 開けばキラキラ輝く大量の金貨。


「これだけあったなら……」


 3年前は金貨5枚があれほど遠い存在だったのに、今は一生かかっても使い切れないほどの数が手元にある。


 過去に戻ってあの時の自分に渡せれば?

 ティアナは無事でいられただろうか……?

 師匠とは出会わなかったのだろうか……?

 自分は弱いままだったのだろうか……?


 もし……という過去が頭をよぎる。


 けれど僕はその想いを封じ込めるように、金貨の袋の口を閉じ元に戻した。

 目を閉じて大きく深呼吸する。


 ――さあ、行こう!


 ギルドに着くと、『獅子の咆哮』さんやジョージさん、ジョナさんが僕を待っていた。

 ジョージさんがその前に進み出る。


「おはよう、ムミョウ君。 いよいよ今日だね……」


「おはようございます。 今日は……30階層を突破します」


 僕の言葉に、ジョージさんは力強く頷く。


「私はもう君の力を疑いはしない。 頑張ってきてくれたまえ」


「はい!」


 フィンさんも前に出てきて、振り絞るような声で話し出す。


「ムミョウ君……君が戻ってきたら頼みたいことがある……だから必ず帰ってきてくれ」


「分かりました。 必ず戻ってきますよ」


 そして僕がギルドを出ようとしたら、ジョナさんが僕の手を握ってきた


「ムミョウ君……」


「はい……?」


 いきなり手を握られたので、僕はちょっとドキッとしてしまう。


「必ず生きて帰ってきてね……」


 涙を浮かべながら僕を見つめる。


「……はい! さっさと30階層突破して戻ってきますよ!」


 僕は歯を出して笑顔を見せることにした。

 そして皆に手を振って僕はギルドを出て行く。


 ▽


 4度目の鍛錬場。

 いつもと変わらずにその門は僕を待ち構えている。

 荷物を担ぎ直してから、僕は水晶に手をかざす。

 一瞬の暗転の後、20階層下の階段に転移した。


 僕は下に降りて21階層を確認する。


 広場には男女の姿をしたグールが約10体、剣や盾を持ったスケルトンナイトが5体

 グールはともかく、ナイトは剣の扱いが上手い。

 荷物を置いた僕は先にナイトを先に片づけることにした。


 ナイトの手前にはグールが固まっており、広場に入った僕に気付いて向かってくるが、ヨタヨタ歩きでは追いつけるはずがない。

 グールの間を縫うように走り抜けて一気にナイトに近づいて刀を抜く。

 こちらに気づいて剣を振ろうとしたがもう遅い。

 胴体を真一文字にぶった斬ってやった。

 派手な音を立てて転がるナイトの骨。

 他のナイトも一斉にこちらに向かって襲ってくるが、冷静に1体ずつ斬り飛ばしてそこら中に骨を飛び散らせた。

 その間にやっとグールが僕に追いついてきたものの、余裕で全員首を飛ばしてやった。


 21階層突破っと……


 グールやスケルトンナイトなら僕じゃなくても十分相手に出来そうだな。

 問題は30階層のあいつだろうな……


 それから25階層までは、グールやスケルトンナイトの数が増えただけで対処は変わらず。

 26階層からは骨の馬に乗った骸骨騎士が現れるようになった。


 猛然と馬を走らせこちらに馬上槍を向けて突進してくる骸骨騎士。

 僕は左に転がりながら回避する。

 動きは直線的、でも当たったらただじゃ済まなそうだ……けど。


 骸骨騎士が馬を返してもう一度突進してきた。

 今度は槍の下をかいくぐってすれ違いながら、刀を払って馬の右脚2本を斬り飛ばす。


 結構な速度で脚を斬り飛ばされたせいで、骸骨騎士と馬は後ろにいたグールどもを巻き込みながら派手に転がっていく。

 トドメを刺そうと近づくと、馬と一緒に骸骨騎士がもがいている。

 馬から離れればいいのに……と思ったがどうやらその考えは違っていたようだ。


 馬と骸骨騎士の身体……ちょっと違うな、骨がくっついているのだ。

 つまり骸骨騎士と馬は一心同体。

 馬の脚さえどうにかすれば簡単に無力化できるっと……

 うんうん、調査も順調に進んでる。


 27から29階層はグールやスケルトンナイト、骸骨騎士と合わせて20体以上出てくるので全滅に時間はかかったものの、苦も無く突破した。


 そしていよいよ30階層。

 向こうを見ればあのデッドマンがこちらを向きながら宙に漂っている。


 連合国の時は弱点が分からず苦戦させられたが……

 念のため、意識を集中させて気を探ってみる。


 以前と同じくデッドマンの胸の辺りに白い点が見える。


 よし……じゃあここで秘策の登場だな!


 そして僕は持ってきた布袋から、丁寧に包まれた物を取り出す。

 中身はナイフ数本。

 ただのナイフではない。

 投擲用に作られており、小ぶりだが先端は鋭く直線的。


 デッドマンの弱点が胸にある点という事が分かっている以上、調査もかねて遠距離での攻撃で倒せるかどうか試してみようという事である。


 これでも投擲は師匠にみっちり仕込まれた。


 ――わしらの姿を見れば刀でしか攻撃できんと敵は思うじゃろう。 だからこそそういう時に投擲による攻撃が最も効果的になるんじゃ――


 とか言って森の中を全力で逃げる鹿にナイフを当てろだの、月明かりしかない夜中に、点にしか見えない的に向けて石を当てろとかさせられたからね……


 両手に1本ずつナイフを持ち、もう一度意識を集中させる。

 白い点が再びデッドマンの胸に灯り出す。

 ゆっくり歩いて徐々に間合いを詰めていく。


 これ1本で倒せるとは思っていない。

 けれどデッドマンに対して有効であると分かるならば、『獅子の咆哮』のレフトさんとライトさん達の弓やメリッサさんの魔法で倒せる可能性が出てくる。


 よーく狙って……


 足を止め、ナイフを全力で投げる。

 勢いよく手を離れたナイフはゆっくりと回転しながらデッドマンの胸の弱点へと吸い込まれていく。


「GYAAAAAAAAAAAAA」


 ナイフが胸へと深く突き刺さった瞬間、デッドマンが胸を押さえ激しい叫び声をあげる。


「え……」


 明らかに予想以上の効果を得られたことに驚きを隠せない。

 地面へと落ちてのたうち回るデッドマンがようやく僕を視線にとらえて氷の矢などを撃ってくる。

 だが、ナイフの攻撃のせいで上手く魔法を撃てないようで、飛んでくる氷の矢は散発的だ。


 僕は氷の矢を躱しつつ、苦しそうに倒れこんでいるデッドマンへ迫る。

 そして胸に突き刺さっているナイフを押し込むように刀も突き刺した。


「GAAAAAAAAAAAAAA」


 デッドマンもこうして白い灰となって消えた。


「……」


 どうにも釈然としないながらも、現れた宝箱を開けると中から僕の身長くらいはありそうな斧が出てきたので背中に担ぎ、31階層へ続く階段に向かい、水晶に手をかざす。


 地上に出ると太陽は西に傾き始めていた。


 ギルドへと戻ると『獅子の咆哮』さん達が中で待っており、僕の姿を見ると一斉に駆け出してきた。


「無事だったかムミョウ君……」


「はい、皆さんの情報のおかげで無事30階層突破出来ました」


「……そうか、では先にギルドへ報告を済ませるといい」


 フィンさんは何か決心したような顔で僕を受付に勧めた。

 僕はそれに促されるまま、受付へと向かう。

 ジョナさんは僕を見ると受付を飛び出し抱きついてきた。


「お帰りムミョウ君! 本当に無事でよかった……」


 胸が……胸が!


「ジョ、ジョナさん……とりあえず到達証明を……」


 今まで感じたことのない女性の柔らかさにドギマギしつつ、どうにかジョナさんを引き剥がす。


「ああ、そうね! すぐに水晶を出すわ!」


 そう言って真っ赤な顔をしながら受付に戻り、僕を手招きする。

 水晶に手をかざせば30の表示。


「おめでとう! ムミョウ君!」


 ジョナさんに心からの祝福を受ける。

 その後は30階層のモンスター達の情報をジョナさんに記録してもらい、持ち帰った斧も買い取ってもらって報酬と併せて金貨35枚を受け取る。


 そこまで終わった所でジョージさんが僕の所へ来て話しかけてきた。


「お疲れ様、ムミョウ君。 君のおかげでかなりの情報が集まった。 感謝してもキリがないよ。 でも帰って来たばかりなのに悪いんだけど……私についてきてくれないか?」


 そう言って僕を以前ジョナさんに連れられて行った扉まで案内する。

 横には『獅子の咆哮』さん達が並んでいた。


 扉の向こうは闘技場。

 中央までついて行ったところでジョージさんは止まり、僕らの方を向く。


「フィン、後は任せた」


 ジョージさんに促されたフィンさんは頷き、僕の方を見た。


「ムミョウ君……私と全力で立ち合ってほしい……」


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