137

「別に恋なんてしてないわよ」

 真っ赤な顔のまま結衣は言った。

 そんな結衣の顔を見て、鮮花は楽しそうな顔でにっこりと笑った。

「それで、相手は誰?」

 鮮花は言う。

「誰でもない」

 結衣は言う。

「もしかして、恋坂の話をするってことはさ、相手は慶太くん?」鮮花は言う。

「慶太?」

「そう。小坂慶太くん。恋坂のもう一人の主役だった結衣の恋をする相手役の人」

「違うよ」

 結衣は言う。

 そのそっけない結衣の反応を見て、「あれ? 本当に違うんだ?」と鮮花は言った。

 小坂慶太は子役時代から有名だった役者さんで、今では同年代のライバルたちから頭ひとつ抜け出すような形で、その存在を認められているすごい少年だった。

 その小坂慶太と結衣は恋坂で恋をする男女の主役同士として共演をしていた。

 鮮花は恋坂の話から結衣の恋の相手を慶太だと予想したようだったが、それは大ハズレだった。

 まあ無理もない。

 結衣が恋をしている、いや、恋をしていた相手は冴えない男子高校生である、小瀬蓬という名前の少年だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る