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「深草さんが仕事をしていたフランスのお店があるんだけど、そこに勉強に行けることになってさ。深草さんから、どうかな? って言われたんだけど、すぐに行くって答えたんだ。だから僕はフランスに行く」
葉月くんは言った。
「それって、いつごろの話?」恵は聞く。
「年が明けて、早ければ一月中、遅くても二月には向こうに行こうと思っている。向こうのお店で働き始めるのは、四月からになると思う」
「……高校は?」
「やめる」
葉月くんはすぐにそう言った。
「もう一年高校に通って、みんなと一緒に卒業してさ、それからじゃだめなの?」恵は言う。
「それも考えたけど、やっぱり今、行くことにする。そう決めたんだ。チャンスだから」
葉月くんは冬の星空を見つめた。
恵も同じように星空を見る。
そこには綺麗な星がいっぱい輝いている。
……でも、もしかしたら私が見ている星空と、葉月くんの見ている星空は、少しだけ違う星空なのかもしれないな、と恵は思った。
それから恵は大好きな葉月くんのことを考えた。
チャンス。
チャンスか。
そうか。これは葉月くんの人生にとって、チャンスなんだ。
「そうか。そうなんだね」恵は言う。
恵の声を聞いて葉月くんが恵を見る。
「おめでとう! 葉月くん! これでまた一歩、夢に近づいたんだね!!」
葉月くんを見ながら、にっこりと笑って恵は言う。
「四ツ谷さんは、僕のこと応援してくれるの?」
葉月くんは言う。
「当たり前じゃない。だって私たちは、友達だもん!」恵は言う。
すると葉月くんは小さく微笑んで「ありがとう」と恵に言った。
葉月くんが今日、恵を待っていたのは、このことを恵に伝えるためだったようだ。
その話をしたあとで、「じゃあ、また明日」と言って葉月くんは恵とは違う道を歩いて、自分の家に帰って行った。
「さようなら」
恵は葉月くんに大きく手を振って、……それから、なぜか恵は全速力で冬の夜の街の中を駆け足で走って、家まで帰った。
その途中で、夜空の星を見たりすることはなかった。
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