119 小鳥 ことり ……奇跡の夜だね。
小鳥 ことり
……奇跡の夜だね。
その日、雨の降る日曜日。
赤い傘をさして雨の中を歩いていた小学生の四ツ谷恵は一匹の猫を拾った。
雨の中で震えていた捨て猫。
その子はダンボールの箱の中に捨てられていた、毛並みの黒い黒猫だった。
「よしよし」
恵は道路脇にしゃがみこんでその子猫の頭をそっと撫でた。
それから恵は、そうするのが当たり前のように、その捨てられていた黒い子猫を、拾って、自分の家に連れて帰った。
両親にはすごく怒られたが(弟はすごく喜んでくれたけど)、結局、恵は粘り勝ちをして、その子猫を自分の部屋で飼うことになった。
恵はすごく嬉しかった。
「よろしくね、猫ちゃん」
そう言って、恵はぬるま湯でしっかりと、その体を洗って、さっぱりとして綺麗になった黒猫の頭を撫でた。
「にゃー」
すると黒猫は、すごく嬉しそうな声で鳴いた。
その黒猫(名前はくろだった)が死んでしまったのは、恵が高校生になった年のことだった。
……結構、長生きしてくれたのだけど、それがくろの寿命なのだとはわかっていたのだけど、それでも恵はすごくショックを受けた。
恵はその日、初めて学校を一日だけお休みした。
それはいつも明るいことしか思い出さない恵にとって、すごく、すごく珍しく、……今も恵の中に残っている、とても悲しい思い出だった。
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