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 二人は学院の近くにある川の横の道を、二人だけで散歩した。

 冬の夜空には綺麗な星と、それから大きな、大きな、美しく輝く丸い月があった。

「……月が出ていますね」

 そんな月を見て、真由子は言った。

「ええ。そうですね」

 少し体を震えさせながら柳田先生はそう言った。

 真由子は学院の制服の上に上質な糸で編まれた黒のダッフルコートをきて、首元には高価な厚手のマフラーを巻いていた。

 反面、柳田先生は安物の薄いコートをいつものおんぼろスーツの上に一枚羽織っているだけだった。

「先生。外は寒かったですか?」真由子は言う。

「いえ。大丈夫です」と体を震わせながら、柳田先生は言った。

 二人はそれから川にかかっている大きな橋の上に移動した。

 そのコンクリートの橋の真ん中あたりのところで真由子は立ち止まって柳田先生の顔を見た。

 柳田先生もその場に立ち止まって、それから真由子にじっと、その目を向けた。

 柳田先生は真剣に真由子の相談に乗るつもりで、その気持ちを頭の中で整えているようだった。

 真由子は大好きなきらきらと光る柳田先生の目を見つめた。

 この目がもう見られなくなると思うと、真由子はなんだか、今すぐにでも、泣き出しそうな気持ちになった。

「柳田先生」真由子は言った。

「はい」

 柳田先生が返事をする。

「柳田先生。私は、柳田先生のことが好きです」それから真由子は人生で初めての告白をした。

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