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このとき、真由子は早月に嘘をついていた。
真由子には確かに好きな人がいた。
その事実に早月が気がついていたのかどうかはわからないけど(早月はよく恋愛の話ばかりをするから)内心、真由子は自分の本心が早月にばれたりしないかどきどきしていた。
「お嬢様。到着いたしました」
「ありがとう」
真由子は車を降りて、レストランの中に移動した。
案内された個室の席まで行くと、そこにはすでに真由子の許嫁である一色小鹿さんがいた。
「こんばんは。真由子さん」
真由子を見ると、席から立ち上がって小鹿は言った。
「こんばんは。一色さん」
真由子はそう小鹿に挨拶をしてから席についた。
白色を基調とした上品な部屋の中には、真由子と小鹿の二人だけ……。
小鹿はじっと真由子の顔を見つめた。
真由子はそっと、少しだけ斜め下に目を向けた。
一色さんはすごくいい人だった。
普通にかっこいいし、優しいし、紳士であり、なにもかもがあの人よりも一般的な評価では優れていた。
真由子だって、たとえ許嫁ではなかったとしても、普通に人生のどこかで一色さんと出会うようなことがあれば、恋に落ちていたと思う。
でも、実際に真由子が出会い、恋に落ちたのは一色さんではなくて、あの人だった。
一色さんは真由子が選んだ人ではなくて、真由子の母親が、あるいは小島の家が選んだ、真由子の恋愛のお相手だった。
そのことを真由子はとても窮屈に感じていた。
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