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 真由子が車を止めてもらったのは、月を見るためだった。

 その日は遠くに見える東京タワーの横に、とても綺麗な三日月が見えていた。

 真由子は歩道の上に立って、そこからじっと、綺麗なオレンジ色にライトアップされた東京タワーと、その横にある三日月を見ていた。

「申し訳ございません、お嬢様。そろそろ出発したしませんと、お時間に遅れてしまいます」

 少しして、真由子の隣に立っていた運転手さんがそう言った。

「ええ。わかりました。わがままを言って、すみませんでした」真由子は言う。

 それから真由子は車に乗り、目的のレストランまで移動した。

 その移動の間、真由子はずっと、月を見ていた。


「真由子は好きな人っていないの?」

 深田早月にそう聞かれて、真由子は「いない」と短く答えた。

「まあ、真由子は私とは違って、本当の正真正銘のお嬢様だもんね。仮にいたとしても、自由恋愛ってわけにはいかないのかな?」早月は言う。

 真由子は本から顔をあげて、早月を見る。

 早月はいつものように、にっこりとした表情で真由子を見ている。

「本当はいるんでしょ?」

 早月は言う。

「……いないよ」真由子は言う。

「本当に?」

「本当だよ」

 真由子がそう言ったところで、二人の会話は一旦、途切れた。

 それから「ごめん。ちょっと遅れた」と言って、椛が生徒会室に入ってきた。

「あれ? 珍しいね。二人だけ?」

「そう。明里と結衣は職員室」

 早月が言う。

 椛がやってきて、三人になったことで、二人の会話はそのまま終わった。

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