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結衣は天橋の真ん中のところまで移動した。
そこに小瀬蓬がいたからだ。
「こんにちは」と明里はいった。
「こんにちは」と蓬がいった。
蓬は、いつもこうして明里の前にいてくれて、こうして明里に挨拶を返してくれて、おまけににっこりと笑ってくれたりもする。それだけで明里は本当にすごくすごく満足だった。
……自分の内側が満たされている、ということを確かに明里は感じていた。
……恋。
これが恋なんですか?
明里は悪い癖で、今もこうしてたまに心の中で前生徒会長さんにそんなことを問いかけてしまう。
でも、前生徒会長さんは明里になにも返事をしてくれない。
それは当然のことで、もう明里の中には前生徒会長さんはいなくなっていたからだ。
明里の中にはちゃんと明里がいて、それから、その隣には小瀬蓬の姿があった。
明里はじっと蓬の顔を見ていた。
するとなんだか自然と涙が溢れてきてしまった。
「ごめんなさい」明里は言う。
それからそっとハンカチを出して自分の目元を軽く拭った。
「なにか悲しいことがあったの?」と蓬は言った。
「ううん。ないよ。私は今、本当に幸せだから」とにっこりと笑って明里は言った。
明里は本当に幸せだった。
この幸せがずっと続けばいいなと思っていた。
「明里?」
そんな聞き慣れた声が聞こえてきたのはちょうど明里がそんなことを考えていたときだった。
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