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 結衣は慌てて、その蓬への思いを振り払った。

 結衣が恋をしているのはアイドルの仕事であって、誰か特定の個人に恋をするつもりは、今のところ、結衣の予定にはないことだった。

「だからね。さっきのカップルさんがこの橋の上にいたみたいに、この場所はデートスポットになっているの。恋人同士でくると願いが叶うって言われているんだよ。それから、もしくはずっと探している自分の運命の相手に出会えたりするんだって。ふふ。なんだか馬鹿みたいだよね」

「どうして?」蓬は言う。

「だって伝説なんて嘘だもん」結衣は言う。

「伝説も、神様も、物語も全部嘘。だってそんなことで願いが叶うんならさ、人はみんな努力をしなくなっちゃうよ」

 蓬は結衣の話を黙って聞いている。

「それにね。夢は自分の力で叶えるものだよ。だからこそ意味がある。少なくとも私はそう信じてる」

「そうなんだ。なんだか平さんらしいね」と蓬は言った。


 それから二人は愛川公園の出口のところで別れることになった。

 蓬には電車の時間があったし、結衣もそろそろマネージャーに電話をかけないと、本当に大変なことになりそうな時間だった。

 結衣は蓬とさよならをするときに蓬に連絡先を聞こうかどうかすごく迷っていた。できれば蓬からその話を切り出してくれないかな? とも期待した。でも蓬は結衣になにも言わなかった。結衣も蓬に連絡先を聞かなかった。

「じゃあ、さよなら」と結衣は言った。

「うん。さよならと蓬は言った。

 そして二人は本当にさよならをした。

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