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 結衣と蓬は街の中でデートをした。

 それはいわゆる普通のデートだった。

 普通のデートというものは、雑誌とかに載っているような、そんなありきたりなデートのことだ。

 でも、そんなデートの時間が結衣は(蓬はそうでもなさそうだったけど)すごく、とても楽しかった。

 結衣はこうして男の人と普通に遊んだり、デートをしたりすることは、今日が人生で産まれて初めての経験だった。

 最初は単に喧嘩をしたマネージャーから逃げるための、ほんの少しの嘘の演技のお相手として、おとなしそうで安全そうな顔をした、そこらへんにいる普通の男子高校生に声をかけただけだったのだけど、思いの外、長い付き合いになってしまった。

 最初に蓬はいきなり目の前に現れて、自分の手を掴んで歩き出した結衣のことを「ナンパ?」と言って、勘違いしていたけど、なんだか本当に結衣が蓬をナンパしたみたいになってしまった。

 そんな経験もすごく結衣は楽しかった。

 一通り、遊びたいと思っていたことや、もし自分に普通の恋人ができたらやりたかったことをやり終えたあとで、結衣は最後に蓬を小さな公園に誘った。

 それは愛川公園という名の公園だった。

 そのころにはもうあたりは暗くなり始めていた。夏の日は長いというのに、楽しかった時間はあっという間に過ぎ去ってしまった。

 二人は愛川公園の中にある小さな家にかかっている天橋という橋の上に移動した。天橋には恋人と同志と思われる男女の二人組がいたが、結衣と蓬がやってくるのを見ると、二人で小声で少し話をしてから、橋を渡り、公園の中に消えていってしまった。

 天橋の上で、結衣と蓬は二人だけになった。

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