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 明里はゆっくりと橋の上を渡り始めた。

 彼は橋のちょうど真ん中のところにいた。

 明里がその近くまで行くと、彼は明里の存在に気がついて、その顔を空から明里のほうに向けた。

 あたりはだいぶ暗くなっていたが、天橋には照明が灯されているので、お互いの顔はよく見えた。

 彼は、明里を見て、なんだかとても驚いた顔をした。

 それから彼は「……すみません」と小さな声でつぶやいて、明里とは反対側の橋の出口に向かって、移動しようとした。

「あ、あの!」

 明里はそう言って彼を呼び止めた。

 すると、彼はその場に立ち止まって、ゆっくりと明里のほうを振り返った。

 明里は、彼の前まで橋の上を移動した。

 彼と出会ったら、いろんなことを話そうと思っていたのに、なかなか言葉が出なかった。

 でも彼はじっと明里のことを見て、明里の言葉を待っていてくれていた。

 明里はそれが嬉しかった。

 なんだか勇気をもらえた気がした。

「……あの、こんなこと言うと、変だと思われるかもしれませんけど、実は私、一度あなたにお会いしたことがあるんです」下を向きながら明里は言った。

「それで、そのときからずっと、実は私は、……あなたのことを探していて」

「横断歩道のところでしょ?」

「え?」

 彼の声を聞いて、明里は思わず顔をあげる。

「少し向こうにある、十字架の形をしたでっかい横断歩道のところ。出会ったのは、今年の四月ごろ」

 彼は言う。

 明里はなんだか、またなにがなにやら、頭の中が混乱してよくわからなくなってきてしまった。

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