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 しかし、日向明里は違った。

 明里は伝説の生徒会を率いた前生徒会長から、直接、生徒会長になるように指名されて(もちろん、選挙は行われて、ちゃんと明里は当選した。……まあ、ほかに立候補者がいなかったからだけど)生徒会長になったと言う事情があった。

 明里は一年、二年とその前生徒会長にとても憧れていて、いつも前生徒会長のあとをついて歩いていた。前生徒会長も明里のことを気に入っていて、まるで明里のことを本当の妹のように可愛がっていた。

 明里はそんな自分の憧れから任された生徒会をなにがなんでもきちんと運営して、もしできれば、あの伝説の生徒会を超えてみせると、そう一人で息巻いていた。

「もう、みんな! ちゃんとやる気出してよ! やろうと思えば、生徒会としてやれることはいくらだってあるはずだよ」

 明里は言う。

 それはある意味、まったく的外れな意見ではなかった。

 実際に去年までは、伝説の生徒会がかなりの革命をこの超保守的な学院で、ほとんど力尽くで起こしていた。

 生徒たちが自由に恋愛できるようになったり、髪型がほんの少しだけど自由になったり、校風が緩やかになったり、生徒たちのスカートの丈が短く、……と言うよりは自分である程度、スカートの長さを決められるようになったりした。

 それらの変化を快く思わない人たちも大勢いた。

 先生たちも、学院の支援者の人たちも、学院の卒業生も、近所の人たちも、あまりよく思ってはいないようだった。

 もちろん、明里もそれらがすべて良いことだとは思っていない。校風が厳しいことはある意味では良いことだし、この前時代的とも言える超保守的なお嬢様学校の雰囲気に誇りや憧れを持っている生徒たちが大勢いることも知っている。

 しかし、そういうことではなく前生徒会が目指したものは自由の獲得だった。

 それはどういうことかと前生徒会長に明里が問いかけると、前生徒会長は「それは成熟するってことだよ」と明里に答えた。

 つまり、大人になる、ということだ。

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