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 そんな光景を見て、思わず小春は、無意識に手に持っていた荷物を床の上に落としてしまった。

 その音に、彼と彼の横にいる女子高生は気がついて、小春と恵のいる方向に目を向けた。

 その瞬間、小春と彼の目が、初めて、正面から重なった。

「あ」

 と小春は言った。

 それから小春は、軽いパニック状態に落ち入ってしまった。小春はそのまま、「ごめん」と隣にいる恵に言うと、すぐに早足で歩き出して、図書館の玄関に向かって移動した。

「小春!」と言う恵の声が背後で聞こえる。

 それから、視界を動かした瞬間に見えた、彼の驚いた表情と、彼の隣にいた可愛らしい女子高生の顔と姿を歩きながら、……小春は思い出していた。


 小春は図書館から外に出ると、そのまま近くにある公園まで移動して、そこにあるベンチの上に座った。

 そこで深呼吸をして、ようやく小春はいつもの自分に戻ることができた。

 小春は自分のバックと恵を、図書館の中に置いてきてしまった。

 周囲を見ると、そこに恵の姿はなかった。

 恵が自分のことを追ってこないのは、きっと私をしばらく一人にさせてあげよう、と言う恵の心遣いだと小春は考えた。

 それから、自分のバックはきっと恵が拾ってくれるだろうと思った。

 小春は公園に生えている緑色の木々の間から見える、青色の夏の空を見上げた。すごく気持ちの良い青空。でも、ちっとも、気持ちよくなんて、全然なかった。

 小春の頭の中は恥ずかしさと後悔でいっぱいだった。

 彼に、……私の、すごく恥ずかしいところを目撃されてしまった。

 そりゃ、彼にだって、女の子の友達がいるのかもしれないし、あるいは普通に彼女がいても全然おかしいことではなかった。

 彼の学校は男子校だけど、都内でも、あるいは全国区でも誰もが名前を知っているような有名な高校だったし、きっと周囲の学校に通っている女子生徒たちはそんな男子生徒たちのことを、放っておくことはしないだろうし、小春が思っている以上に、彼は、……もてたりするのだろう。

 それなのに小春は彼にそういう女の人がいる、と言う可能性を今まで完璧に無視していた。

 日曜日の図書館で彼はずっと一人だった。

 彼は、孤独な人なのだと、小春は勝手に思い込んでいたのだった。

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