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 さらに一年の年月が過ぎて、絵里は高校三年生になった。

 この一年で、絵里は自分の抱えているいろんな問題に、一応、自分なりに決着をつけることができた。

 高校三年生になっても、相変わらず真冬と芽衣の仲はとても好調だった。二人とも一緒の大学にいくのだと受験勉強を張り切っていた。

 その大学はとても偏差値の高い難関中の難関大学だったけど、二人の成績であれば、恐らく二人とも合格するだろうと絵里は思った。

 そして、その予想通りに年が明けてからの三月の受験の合格発表の日に、二人はその大学に見事、合格した。

 絵里は二人に「おめでとう」と言った。

 真冬と芽衣は絵里に「ありがとう」と答えた。

 絵里は二人とは違う大学を選んだ。

 成績的には同じ大学に絵里が進学することも可能だったとは思うけど、このころには絵里には絵里の夢があったし、自分の進みたい大学にきちんと進学することにしたのだ。

 芽衣と絵里の二人の親友の恵も違う大学だった。

 これで芽衣と絵里と恵の三人はそれぞれが別の大学に進学することになった。

 春休みには三人で一緒に卒業旅行に出かける予定になっている。


 これで、絵里に残された問題は忍だけとなった。

 森野忍。

 私の幼馴染で、かっこよくて、性格もよくて、よく女子生徒に告白されたりしていたみたいだったけど、それを全部断って、いつでも、私の一番近くにいて、私をずっと守ってくれて、……私のことをずっと好きだと言ってくれる男の子。

 隣の家に住んでいて、ずっと小さなころから知っている忍は、絵里にとっては、忍が高校生になった今も、ずっと小さいまんまのやんちゃな男の子だった。

 それは忍にとっての絵里も一緒のはずだと思っていた。

 私たちは一緒にいれば、あの幸せだった子供時代に、タイムトラベルでもするみたいに、いつでも戻れるのだと、絵里は思っていた。


 でも、そんなことは全然なかった。

 この世界に変わらないものなどない。

 森野忍は大人になったし、山吹絵里も大人になったのだ。

 もう二人は、小さな子供ではない。

 無垢でも、無罪でも真っ白でもない。普通のどこにでもいるこれから大学生になろうとしている十八歳になった高校三年生の男子生徒と女子生徒だった。


 卒業式の日に、絵里は忍を学校の校門のところに呼び出した。

 ……ずっと待たせていたというのに、忍はちゃんと絵里の前にやってきた。そんな卒業証書を手に持って歩く制服姿の忍の姿を見て、……相変わらず、その顔に似合わずに子供のころからずっと真面目なやつだ、と絵里は思った。

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