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「俺、お前のことがずっと前から好きなんだ」

 そんなことを突然、忍が絵里に言った。

「え?」

 絵里はいった。

 絵里はなんだか忍の言っている言葉の意味が、最初よく理解することができなかった。でも、理解できるようになると絵里は驚いて、それから顔を恥ずかしさで真っ赤に染めた。

 遠くの空に花火が咲いた。

「気がついてなかっただろ?」忍は言う。

「……うん」絵里は言う。

「俺はお前と違って、嘘が上手だからな」と忍は絵里の顔見て、にっこりと笑いながらそう言った。

「今、お前に告白するのは卑怯だとはわかっているんだけどさ、なんていうか、タイミングっていうのかな。今しかないって、考えれば考えるほど、そう思えてきてさ。だから告白した。俺はずっと前から、山吹絵里に惚れているんだ」

 絵里は、できれば顔をどこかの穴の中にでも隠したいと思った。

 それくらい、忍の告白を聞いているだけで、恥ずかしかった。

 絵里はまだ人に恋の告白をしたことが一度もないのだけど、恋の告白をされたことも一度もなかった。これが絵里の人生初めての恋の告白をされた経験だった。

 絵里はどうしていいのかもわからずに、ただじっと忍の顔を見つめていた。

 また、花火が咲いた。

 忍はその顔を、絵里から、夜空に咲く花火に向けた。

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