11.託された光
女神の双剣を取り戻した私達は、速やかにタルガランド陛下に報告を済ませた。
陛下もまさか、長年国に尽くしてきたターティルが魔族側の人物だったとは予想もしていなかったそうで……。表情には出さなくとも、声の調子から落胆しているのが分かった。
ターティルと彼と共に捕らえられた者達は、近日中に獣王国裁判にかけられ、厳しく裁かれるのだという。
巫女と共に戦った吸血鬼の生き残りであるルークさんの証言のもと、各国のトップには魔族大陸の封印が崩壊の危機にある事は、既に知らされている。
私は巫女の転生者──そして今世の新たな巫女として、玉座の間にて陛下から女神の双剣を受け取った。
残る神器は四つ。それに、タルガランド陛下から託された双剣の使い手も探さなくてはならないのだけれど……。
私はふと、後方へと視線を向けた。その先に居るのは、ガルフェリアの王家の遠縁である彼……リアンさんである。
リアンさんが彼の父君である理事長様と戦ったあの時、私は彼に光を見た。
あの光こそが、女神の神器を持つに相応しい資格を持つ者の証であるならば──
「……タルガランド陛下」
私は陛下の方に向き直り、改めて口を開く。
「女神の神器には、それを操るに相応しい勇士を必要と致しますわ。そこで私は、この双剣を陛下の遠縁である彼……リアンさんに預けようと思うのです」
「ログスの子に、か……」
「れ、レティシア⁉︎」
後ろからリアンさんの驚く声が聞こえるけれど、今は陛下のお言葉を待たなくては。
私の意見を参考に、陛下の視線がリアンさんへと向けられた。
「……確かにその者は、あのログスを打ち負かす程の剣の使い手である。そのうえ……今世の巫女たる貴殿の推薦とあらば、納得しない理由が無い」
マジかよ……! と、リアンさんが本音を漏らす。
視線を移すと、彼の隣に立つルークさんが呆然とした様子のリアンさんを膝で突っついて、ニヤニヤと笑っている。
学校に居る時と変わらない二人のやり取りに、見ているこちらまで口元が緩んでしまいそうだった。
けれども今この場は、巫女として振る舞いましょう。
陛下から託された双剣を抱え、私はリアンさんの元へ歩んでいく。
そんな私とリアンさんを、お兄様やウォルグさん、ホーキンス様達も見守ってくれていた。
「リアンさん……いいえ。リアン・セイガフ」
「……っ、は、はい!」
私が彼の前で名前を呼び直すと、リアンさんがピンと背筋を正して返事をする。
「私、レティシア・アルドゴールは、女神シャルヴレアの声を聞く巫女として……貴方をここに勇士と認め、女神の神器の一つを託します」
その言葉を聞いて、リアンさんの瞳に炎が宿るのが分かった。
「はいっ! オレ、魔王なんかに絶対負けない! 王様やオヤジの分まで、死ぬ気で戦って全力を出し尽くしてやるからさ‼︎」
「ええ。これからもリアンさんを頼りにさせて頂きますね」
「熱くなりすぎて、空回りしなければ良いけどねぇ?」
「もーっ! ルーク先輩、こういう時に水差すのやめてってば!」
「ごめんごめーん」
ルークさんが茶々を入れるものだから、どうにも空気が締まらなくなってしまったけれど……。
そうして女神の双剣は、陛下から私へ。私からリアンさんの手へと渡った。
リアンさんは改めて私の顔を見て、こう宣言した。
「えっとさ……。オレ、レティシアやウォルグ先輩みたいに凄い人の生まれ変わりとかじゃないけど、その分めちゃくちゃ頑張るからさ! オレの事を信じてくれて、ありがとな!」
そう言って笑ったリアンさんの顔は、初めて彼と知り合った頃よりも、ずっとずっと頼もしくみえたのだった。
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