委員長がわたしを好き?
好きなタイプって
昼休み、給食を食べ終わって、さっこちゃん達と他愛のない話をしてたら。
「あ、あの、牧野さん」
気弱そうな男の子の声に呼ばれてそっちをみたら、冴羽くんがいた。
ひょろっと背が高くて、いかにも真面目そうな黒ぶち眼鏡かけてて、いかにもお勉強出来ます的な見た目どおり、成績はすごくいい。でもいばってなくて、優しい感じの子だ。委員長の仕事も一生懸命やってる。
委員長に話しかけられるようなこと、したっけ?
「ん? 何?」
きょとんと彼を見ると、周りの女の子達も冴羽くんを見た。
「……大丈夫だった?」
へ? 何が?
「朝の事じゃない?」
さっこちゃんが、ぼそり。
「うん、三年生に呼びだされた、って聞いたから」
あー、先輩達とのトラブルのことか。
「大丈夫だよ。もう解決したし」
「それなら、いいけど」
冴羽くんがちょっと笑う。
「うん、だいじょーぶ。でも冴羽くん大変だね。委員長ってそんなことも対処しないといけないんだね」
「えっ? あ、いや、そうじゃなくって……」
冴羽くん、口ごもっちゃった。
「おいおい牧野、それマジボケか?」
「委員長の仕事とかじゃないって」
わたし達の周りをいつの間にか遠巻きにしてた男子達がにやにや笑って近寄ってきた。
「へっ? じゃあ、なんで?」
「うわぁ、全然相手にされてない。冴羽かわいそー」
「フラれる以前の問題か」
周りの声に、冴羽くんは赤くなってうつむいちゃった。
あー、そういうこと。
こういうからかいって、わたし、あんまり好きじゃないんだよね。本人の気持ちを無視して好きだ嫌いだって騒いだって面白くもなんともないのに。
「ちょっとちょっと、そういうのやめようよ。冴羽くん困っちゃってるよ。冴羽くんも、嫌なことはきちんと言っちゃった方がいいよ?」
みんなそれ以上何も言ってこなくなった。
ほら、やっぱり嫌なことはやめようって主張しないと。
「えっと、あの、……ごめん」
「なんで冴羽くんが謝るんだよ。ねぇ?」
女子グループに同意を求めてみたら、みんな「そうだね」って言いながら微妙な顔してる。
あれ? わたし何か悪いこと言った?
「とにかく、牧野さんが平気ならそれでよかったよ」
言い残して、冴羽くんは逃げるように行っちゃった。
周りの人達も、つまんなさそうに離れてく。
冴羽くん、心配してくれて、内気なのにありったけの勇気振り絞って声かけてくれるなんて優しいよね。ただからかってるだけの遠巻きの連中は見習えばいいと思うよ。わたしが先輩に呼び出された時は助けにも来てくれないでニラニラしてたくせに。
血相変えてくれたのは、さっこちゃんと一部の仲良しさんだけだったよ。
「まさかうちの兄貴のせいでこんなことまで影響するなんて、ほんと、ごめん」
「さっこちゃんが全然気にすることじゃないよ」
「そーだよ。先輩達が大人げないんだよ。好きな人が他の子とちょっと話したぐらいで集団で脅しに来るなんて、そんなんだから好かれないんだよ」
わー、それ言っちゃう?
思わず、ぷっ、て笑ったら、周りのみんなも笑いだした。
「でもさ、そういうのって恋愛対象って言うより好きなアイドル追っかけてるみたいじゃない? 自分達で決めた距離感破ったら、多分友達でもケンカちゃう、みたいな」
「あー、そんなノリっぽいよね」
なんか、いきなり深い話になったぞ。
愛良もそう思うよね? なんて聞かれても……。
「わたしは、よくわからない。先輩達が淳くんのこと好きなんだなってのはわかるけど」
「愛良、おくてだもんねー」
「愛良ちゃん、兄貴は好きだけど恋愛とは違うって言ってたでしょ? その違いみたいなもんだと思うよ」
「あー、それならわかる」
「そーいや、愛良の好きなタイプってどんなのよ?」
「へっ? そうだなぁ……」
できれば夢魔や狩人のことも知っててくれて、そういう話もできて、いざとなったら守ってくれる人……、なんてさすがに言えない。
「守ってくれる人? かな?」
最後の部分だけ答えたら、なんか笑われた。
「さすがおくて、王子様待ちか」
「ってことは、やっぱ望みなしだね、かわいそーに」
……何か変なこと言った? ってか望みなしって?
首をかしげるわたしの周りで、恋バナはまだまだ盛り上がるのであった……。
夏休みに入って、さっこちゃんと遊ぶ時間が増えた。
今日もまたブルーレイとか、今はもうすたれちゃった秘蔵VHSとかで、アクション映画を鑑賞だ。新しい映画もいいけど、古いのも独特の味があっていいよね。
「そーいや、さっこちゃんがアクションにハマったきっかけって?」
「これでハマった、ってのはないけど、お母さんが好きでさ、しょっちゅう見てたからわたしも一緒にって感じで。VHSはその名残。今も時々一緒に見てるよ」
へぇ、さっこ母って映画好きだったんだ。
「じゃあ、お父さんも?」
「お父さんは忙しいから映画とかゆっくり見てるのは、見たことないなぁ」
そういや、さっこ父は激務だって言ってたな。わたしも、たまーにしか会ったことない。
「超忙しいんだっけ? お母さんとどうやって知り合ったん?」
「お父さんがコンピューター関係の仕事で、お母さんが働いてたとこに派遣されて、だってさ」
ふーん、ってうなずきながら、おやつに出してくれたクッキーをかじった。
それからはまた、しばらく映画見てたけど、不意にさっこちゃんが尋ねてきた。
「愛良ちゃんの理想の『守ってくれる人』ってさ、なんか根拠っていうか具体的な理由みたいなの、あるん? 実はもうそういう人、見つけてたり?」
突然話ふられて、クッキーが喉に詰まりそうになった。
「な、なんで?」
「『何かあった時に守ってくれそうな人』じゃなくて『守ってくれる人』だから。なんか具体例みたいなのがあるのかなぁって」
具体例というか、具体的に夢魔関係の事を思い浮かべて、なんだけどね。だってかっこいいじゃない? 映画みたいにさ、ピンチになったら助けに入ってくれる人が彼氏って。
「好きな人はいないよ。そんな人がいたら、真っ先にさっこちゃんに相談とかしてるって」
「そっか。ごめん、ちょっとほっとした。なんか、おいてかれたのかと思っちゃった」
クールなさっこちゃんが、なんかもじもじしてる。もしかして、あの日からずっと気にしてた?
かわいい! こういうのを萌えるっていうんだな!
「今はさっこちゃんがいちばーん!」
ぎゅーって抱きついたら、わたしもーってハグしかえしてくれた。
周りは好きな子が、とかいろいろ大人びた会話も飛び交い始めてきたけど、わたし達はしばらく、このままでいいや!
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