第16話 湧き出す黒き魔の障り 前話

 「ジケイさん!大変です、また出ました!例の黒いの!」

 「あーもう、またかよ!いったい何度目だ?」

 左右をビル群に囲まれた大きな通りを、ジケイと呼ばれた若い男と、黒地のドレスを着た少女の二人が両手にいっぱいの紙袋を持って佇む。その後ろから、黒地のスーツに身を包みサングラスをかけた初老の男が、手に下げた長めの棒のようなものを杖代わりに近づきながら言った。

 「ですから、目的地以外の場所へは出向かないようにと言いましたのに」

 「なんだよロイ、レイミリアを探すならここだろうって、最初にそう言ったのはお前じゃないか?」

 「いいえ、それを言いだしたのはジケイ様です。私とマニは、それはないとはっきり言わせてもらいました」

 「あれ?そうだったか?」


 ぱっと見、白い学生服を着ているように見えるジケイの服装も、黒のスーツに身を包んだロイも、ドレス姿のマニの様子さえも、この場所では自然に溶け込んで見える。大通りが人であふれかえり、その路面のいたるところに、彼らよりももっと不思議な服装で人垣を築く若者たちの姿が目に留まっている。

 「どっちにしたって、あのショタ病のレイミリアがこの場所をスルーして通るとは思えないんだけどな」

 「そんなことよりも!黒いのがほら!あっち、あっちの人垣の真ん中に立っている女の子の背後に沢山!それと、向こう側にもいました!」

 「煩いな、そんなのほっとけ!あの黒いのなんかたいして被害も出してねえだろう!それよかほら!追跡のための資料がまだ足りないから、次行くぞ次!」

 「ですから、それよりもクラウス様からご依頼されたレイミリア様の探索を優先させないと……」

 「大丈夫だって。伯父さんからは全部任せるって言われてるんだ。レイミリアのことなら、あいつと一緒に育ってきた俺とマニに任せとけばいい」

 「しかし、こんな極東の街にレイミリア様がいらっしゃっているとは、このロイには思えません」

 「あのなぁ、ロイじい。あいつはああ見えて、抜け目ない女だぞ。そのあいつが、こんなにも沢山、自分の欲求を満たしてくれそうな書籍があるこの街に目をつけないわけがないだろう」

 そう言ってジケイが紙袋から取り出したのは、一冊の雑誌だ。その表紙を見るとそこには、まだ子供に見える幼い少年たちが笑顔で写っている。

 「な、これならあいつは確実に食いつくだろう」

 「……さようでしょうか、レイミリア様が愛でられる対象よりもいささか年かさが増しているような気もしますが……」

 ロイじいの言うとおり、幼くは見えるがその雑誌に写る子らは既に青年とも呼べそうな雰囲気を漂わせている。

 「であれば、こっちだ。こっちはずばりショタの道とタイトルが書かれている。これならばどうだ?」

 そう言ってジケイが突き出した本は、写真ではなく絵で描かれた一冊の本だ。可愛い感じの男の子と、少しだけレイミリアに似た感じの少女が見つめ合っているような表紙が目立つ。

 「……しかし、まだ中身を確認してはいないのですよね。その袋を破いて中を見て見ないことには……」

 「くどい!俺がこれだって言ったらこれでいいんだ!」

 「ジケイさん!あっちの人だかりに湧いてた黒いのが、なんか霞みたいになって空に昇っていってます!」

 「マニ!お前もくどい!特に実害もないのだからそんなのはほっとけって言っただろう!」

 「でも、でも、でも!ほら!今度はあっち側でまた黒い影が湧いてきてます。なんでしょう、あれ?なんか人垣の一部からどんどん湧いて出ているみたいなんですけど……」

 「周りの連中もたいして気にしてないみたいだから、たぶんたいしたことない奴なんだろう。集まってる誰かが不完全燃焼の生木でも燃やしてるんじゃないか?そうやって中心に立つ相手を褒め称えてるのかもしれんだろう」

 「ああ、なるほど……」

 なるほど、と答えつつ、そう言ったマニの目は白けた感じだ。


 「要は、興味ないってことですよね。昔っからそうでしたものね。ちっちゃい頃に見に行ったドラゴンも、遠目でちらっと見たらさっさとどこか行っちゃってましたもんね。その時にも確か、そんなふうに適当なことをいってましたものね!」

 頬をぷくっと膨らませて、両手で抱えた紙袋に顎を乗せながら呪術のようにつぶやくマニ。それに合わせ、ため息をついて肩を落とすロイじい。二人を前にジケイは少しだけ困った顔になっている。

 「わかったわかった。そしたら、次の場所に向かうぞ。ロイじい、鍵を出せ」

 「ジケイ様、お借りしてきた鍵の使用は人目に付かぬ場所でと言われております」

 「だったら、どこか物陰に向かうぞ!」


 そう言ってジケイ達三人は、ビルとビルの間にできた細い路地へと入り込んでいった。それきり、街から姿を消す。通りにあふれる人々はそのことに気づかないまま、不思議な熱気とどこか枯れたような倦怠感が街中を覆うようにあふれていた。例の黒い影もまた、その倦怠感に似た雰囲気の中で枯れることなく湧き続けていく。



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