第57話 飛ぶ猫
よく分からない事件のあとは、特になにもなく過ごしていた。
回復魔法と結界魔法だけでは芸がないと、私は別ジャンルの魔法に手を出した。
数ある魔法の中でも、最上級ランクに入る飛行の魔法だった。
「ダメ、絶対。危ない!!」
アリーナが怒り顔でいった。
「ヤダ、やるっていったらやるもん。飛ばねぇ猫はただの猫だもん!!」
私はせっせと呪文を組みながら、アリーナにべーっと舌を出した。
「この野郎、いうこと聞きやがれ!!」
「嫌だもん、ただの猫は嫌だもん!!」
組む気になれば、私の呪文作成は極めて速いと自負している。
実働三時間で飛行の魔法の呪文を組み上げた。
「出来たぞこの野郎、飛んでくるぜ!!」
「コラ待て!!」
捕まえようとしたアリーナの手をすり抜け、私は研究室から飛びだした。
「おらぁ、待ちやがれ!!」
すげぇ勢いで、アリーナが追ってきた。
「うぉ、猫の速度についてくるぞ!?」
私はスパッと四足歩行に切り替え、全身の筋肉を使って最高速まで一気に加速した。
「テメェ!!」
しかし、アリーナとの距離は縮まらなかった。
「……あ、あいつ、人間か?」
半ば戦慄を覚えながらも校舎の外に飛び出て、私は即座に呪文を唱えた。
正体不明の甲高い音が聞こえ、私は爆発的に加速した。
そのまま放り出されるように空に飛び上がり、なんとか姿勢を取り戻した。
「……呪文間違えたかな。なに、この金属音?」
戸惑っている間にも速度は上がり、私は一気に高度を上げた。
「……すげぇ、飛べたけど速いって。それに、この金属音はなんだよ!?」
数分でいつもの街上空を掠め飛び、これ以上遠くに行くと何があるか分からないので、急旋回して学校を目指した。
すぐさま見えてきた校庭には、初飛行に付き合った飛行機機械のようなものが引き出されていた。
「あ、アリーナのヤツ、追ってくる気だ!?」
飛行魔法を使っている間は、一種の結界魔法のようなもので体が守られるので、外の音は聞こえない。
そういうように作ったので、空中停止出来る事は分かっていた。
上空でしばらく校庭を眺めていると、飛行機械のようなものの後方からど派手に火柱が吹き出した。
同時に、もの凄い速度で校庭を突っ走り、凄まじい急角度で上昇した。
「……すっげぇ進化してるんですけど。アリーナ、恐るべし」
急上昇した飛行機機が、紛れもなく私に向かって旋回しようとしていた。
「うげっ、逃げろ!!」
私は慌てて上空で急発進した。
しばらく飛んで背後を振り返ると、殺気すら感じる勢いで飛行機機械が迫っていた。
「ぎゃあ、殺される!?」
私はコントロール出来るギリギリの速度で、ひたすら逃げた。
しかし、恐ろしい進化を遂げた飛行機械はぴったり張り付いてきた。
直線じゃダメだと一気に急上昇に転じ、ちらっとみるとやはりいた。
「な、なんじゃ、ありゃ!?」
あとはメチャメチャに飛び回り、とにかく引き剥がそうとしたが、とにかくしつこくついてきた。
「こ、このしつこさはアリーナ以外ありえねぇ。こうなったら……対空攻撃魔法!!」
私が放った光りを、飛行機械はあっさり避けた。
「……甘いな、それは追尾するんだよ」
再度背後から迫った光を飛行機械はあっさり避け、その進路上にいた私を直撃した。
「……おぅ、自分で食らっちまったぜ。結界があって良かったな」
思わず止まった時、迫っていた飛行機械が私を盛大に跳ね飛ばした。
「ぎゃああ!?」
もはや、姿勢制御は困難だった。
回転しながら地上目がけて墜落していき、たまたま校舎の屋上に突っ込んだ。
結界のお陰で痛くも痒くもないが、今のうちにどっかに隠れておかないと危険だった。
「と、とにかく、自分の部屋だ。あそこなら安心だ!!」
私は慌てて寮に向かってダッシュした。
「ああ、もう。ベッドの下しかねぇ!!」
私は自分の部屋のベッドの下に潜り、猫お得意の完全に気配を消して潜むを実行した。
どれくらいたったか、扉を閉め忘れていた部屋に誰かが入ってきた。
「サーシャの行動パタ-ンは分かってるんだよ。逃げ込むならここ、ベッドの下ってな。ベッドをぶっ壊されたくなかったら、とっとと出てこい!!」
アリーナの怒り声が聞こえてきた。
「……ば、バレてるし」
「なんだ、おい。ベッドぶっ壊してもいいんだぞ?」
私はベッドの下から出た。
「……攻撃魔法まで撃ったな。おい」
「……ごめんなさい」
私はため息を吐いた。
「ったく、とんだお転婆野郎だぜ。今日はもう知らん」
アリーナはため息を吐き、部屋から出ていった。
「……怒らせたな。当たり前か」
私はベッド上に乗り、丸くなった。
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