第43話 誕生会から学校への帰路

 どうも分からないが、誕生会というのは誰かにクリームが入ったなにかを投げつけ、殴り倒した挙げ句、ホイップクリーム塗れにするところから始まるらしい。

 その後、なにか集まってきた人たちから、形式張ったお祝いの言葉を投げつけられ、反応に困るという苦行も課せられる。

 意味は分からないが、誕生日であるということを考えると、これも修行の一環なのだと解釈した。

「……なかなかの苦行だぞ。人間は大変だな!!」

「そうだ、人間は大変だぜ!!」

 私を抱えたアリーナは、特に意味もなく会場をフラフラした。

「さすがに急過ぎてケーキが用意出来なかったんだよね。ごめん」

 アリーナがため息を吐いた。

「なに、ケーキまであるのが普通なのか。どれだけ、生クリーム好きなんだよ!?」

「うん、ケーキがない誕生会なんて、尻尾がない猫みたいなもんだぞ!!」

 私は戦慄した。

「そ、それは、違う生き物だ。尻尾がなかったら、どうやってバランス取るんだよ!?」

「だろ、バランスが取れないんだよ。まあ、プレゼントだけは渡しておこう」

 アリーナがなんかとんでもないものを出した。

「……こ、これ、なんかサイズまでジャストフィットなミスリルの杖?」

「前から欲しがってただろ。高度な回復魔法には必須だけど、高すぎて買えないって。今日に合わせてオーダーしておいたぞ。これしかないって思ったプレゼントだ!!」

 アリーナが笑みを浮かべた。

「プレゼントってどうして。これ、安くないぞ?」

「誕生日ってのはそういう日だ。貴様、まだ生きていやがったか!! って、プレゼントを渡すんだよ」

 アリーナは笑って、私を抱えて部屋を出た。

「……さすがにクリームが痒い。風呂入るぞ」

「……私の傷口、まだしぶといのがあるんだけど、いっか!!」


 風呂から上がると、アリーナは私を抱えて会場に戻った。

「サーシャの部屋なんかも見せたかったんだけど、あっちは警備が面倒だから今度ね!!」

「な、なに、私の部屋なんてあるの!?」

 アリーナが不思議そうな顔をした。

「ただの王女に部屋がねぇって、そんなファンキーな城じゃねぇぞ!!」

「……ふ、ファンキー上等です」

 アリーナが笑みを浮かべた。

「もう実家には帰りにくいだろ。無駄にデカくなっちまったが、ここを家だと思いなよ」

「……デカいなんてもんじゃねぇけど、帰る場所ね」

 私は笑みを浮かべた。

「そういうこった。さて、適当なところでお開きにしねぇとな。いつまでもやってるからな!!」

 会場に入ったアリーナは、部屋のど真ん中で叫んだ。

「状況終了!!」

 すると、部屋で話していた人たちがゾロゾロ退室していった。

「……凄い統制」

「こういうことろは、よく出来てるんだな!!」

 アリーナは笑みを浮かべ、部屋を出ようとした。

「ちょっと待て、お前本当に全貴族の推薦状をもらってきたのか!?」

 アリーナのお父さんが叫んだ。

「はい、そうしろとの事でしたので。これを元に、こっそり開いた議会でも承認を得ています。今の第三王女サーシャは、いわゆる『ただの王女』です。全て、この国の法に則ったもの。問題はありません」

 お父さんは頭を抱えた。

「こんな事はいいたくないが、猫の寿命は知っているか?」

 アリーナがハッとした表情を浮かべた。

「さ、サーシャ、お前何才まで生きる。気合い入れてくれ!!」

「……き、気合い入れたって二十年くらい?」

 アリーナが私を揺さぶった。

「馬鹿野郎、気合いが足りねぇ。百年くらい余裕だろ!!」

「馬鹿野郎、猫が百才越えると尻尾が九つに割れて妖怪になっちまうんだよ。誰もなった事ないけど、みんないってるから間違いねぇ!!」

 アリーナのお父さんはため息を吐いた。

「やってしまったものは仕方ないな。まあ、結局お前がやる事になると思うぞ」

「サーシャに全て掛かってるだよ。不老不死とか、そんな魔法あるだろ!?」

「ねぇよ。あっても、なんで私がそうならないといけないんだよ……」

 アリーナは私を小脇に抱え、廊下をダッシュした。

 そのまま厨房に飛び込むと、その辺にあった麻袋を取って広げた。

「一番いいやつを頼む!!」

「……何のだよ、主語がねぇよ」

 しかし、通じたらしく麻袋には大量の猫缶が放り込まれた。

「いいもん食わせりゃ死なん!!」

「……ある意味で、間違ってないな」

 大量の猫缶が詰まった麻袋を担ぎ、反対の手で私を小脇に抱え、アリーナは家の外に飛び出て馬車に飛び乗った。

 なにか空気でも漏れる音が聞こえ、扉が自動的に閉まった。

 一定の音階で上がって行く機械的な音と共に、馬車が滑らかに走り始めた。

「……おい、この馬車なんだ?」

「最近導入した最新モデルだ。VVVFインバータ制御の馬だぜ!!」

 アリーナが笑みを浮かべた。

「そうか、馬は分からんがそういう品種なんだな」

「まあ、そういう事にしとけ。帰るぞ、学校に!!」

 なぜか機械音のする馬が引く馬車は、相変わらずの大暴走で街を駆け抜けた。

 なんか色々ぶっ壊しながら爆走し、修復工事中だった街の門を再び叩き壊し、雪積もる街道を突っ走っていった。

「よし、休むぞ。私はちょっと寝る」

 アリーナは目を閉じ、小さく笑みを浮かべた。

「……お前、なにやってくれたんだよ。聞いてもいわないだろうけどな」

「……分かってるなら聞くな。タイミングみて話すよ」

 馬車は雪煙を上げながら、驚異的な速度で街道を快走していった。

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