第18話 霊気の繋がり、騎士団の長 6/5
騎士曰くこの先に角馬車なるものがありそれで騎士団中央本部へ向かうそうだ。少し先を見てみると角の生えた馬のような生き物が馬車に繋がれている。
この世界での馬みたいなものかと考えていた時、
『ルカワさん、ルカワさん』
と、ミーナの声が頭の中に聞こえてきた。
一瞬驚いて声が出そうになったがなんとか堪えた。頭の中に話しかけるということは外に聞こえてしまうのは不味い事の筈だ。
聞いてみると私が異なる世界から来ている、ということは今のところミーナとヴァイク、イルミナくらいしか知っておらず、見たことのないものに対して迂闊に声を出すと変に思われるから分からないことがあったら霊気伝達を飛ばして欲しいとの事だ。
それは構わないが霊気伝達なんてどうやってやるんだと聞くと、
『今まさにやってるソレです。ルカワさんは霊気に関することならイメージするだけでできるんですよ』
と、返ってきて、そう言えばそうだったと思い、
『ミーナの頭の中に語りかけるイメージで、こっちから話しかければいいんだな』
と、伝えるとソレでいいとのことだった。
因みに今見えている生き物は「角馬」と言って、この世界では一般的なものだとミーナから伝達が入った。
とにかくも馬車に私達が乗り込むと、先程の騎士が中央本部までは二十分程になるとのことを伝えて騎手の隣に座った。
これで二人きりかと思い、色々と聞こうと思ったのだが、口に出して聞くと前の二人に聞かれるかもしれないので霊気伝達で尋ねることにした。先程の事を踏まえ、頭の中に話しかけるイメージで伝達すると、
『何でしょう。ルカワさん』
上手くいったようでそう返ってきた。
『色々聞きたいんだがコレの方が良いよな』
『そうですね。前の二人は術士でもなさそうですし、そもそも私達のコレを盗聴するのは不可能です』
その後色々と聞いて分かったことは、私の素性が「記憶の一部を失った旅人」となっていること。ミーナと出会ったのはギュリア襲撃後の村(トルナス村)に偶然立ち寄ったから、ということにしたらしい。
また、信用に足るかどうかはミーナが物の真贋や人の嘘を見抜ける、ということからミーナが信用できると言ったら信用できるし、何より命を賭してまでミーナを助け出したということが信用を生んでいるのだそうだ。
私の身元や信用がどうなっているのかは分かったので、取り計らってくれたことに礼を述べたのだが、もう一つ気になることがあって聞いてみた。
『私は風属性の霊術しかつかえないんだろう? なぜ霊術じみた霊気伝達とかいうものができるんだ?』
そうすると霊気伝達は霊術ではなく霊気の繋がり、「霊気連結」によってできるもので厳密には霊術では無いのだそうだ。
そして親族に霊術士が居るなら、その霊術士と親族の間には霊気連結が先天的に発生するので霊気伝達がすぐにできる、例えるならミーナとヴァイクのような感じで、何の練習も無しにできるのはほぼ親族の場合に限られる。
でも私はミーナに霊気渡しをしたので親族でも無いのに霊気連結がすぐに出来たという事である様だ。
更に分かったことは、通常の霊気量で通常の霊気渡しをしただけでは霊気連結など発生しないし、そもそも実は霊気渡しというソレ自体が通常の霊気量ならあまり安全ではない、それどころか霊気を取りすぎてしまい、枯渇にまで至る可能性もあるのだという。
何故私とミーナではそんなにもハイリスクなことが出来たのかと言うと、私自身の膨大な体内霊気量と回復速度の速さ、加えてミーナは霊人なので霊気量を素早く管理・監視できたから、らしい。
霊気連結について詳しく聞こうとしたのだが騎士団中央本部に着いたらしく馬車が停まり、案内され騎士が扉を開けて去った後、前方にヴァイクともう一人私と同じくらいかそれよりも大柄の男がいた。
「ミーナ、ルカワさん、元気になって何よりだ」
「ミーナのお陰だよ、ヴァイク。ミーナを助けるつもりが助けられてしまった」
そう言ったところで、
「ここに来るまでミーナに付き沿い、助け出してくれたこと。貴方の命を賭けてまで倒れたミーナをここに連れてきてくれたこと、ミーナ、ヴァイクの父母に代わり心より感謝申し上げる」
と、大柄な男が深々と礼を述べてきたので事情と掴みきれず私が言葉に詰まっていると、
「立ち話もなんですし、応接室でお話しましょう」
そうヴァイクに言われてすぐそこの応接室に入ることになった。
応接室について腰を下ろすと大柄な男が、
「自己紹介が遅れてしまったね。私は騎士団長をしているドルセンという者だ。貴方のことはヴァイクより聞いている。異世界から来て大変な思いをされているであろう中、ミーナを助け出してくれたこと、今一度感謝を述べる」
と、言ってきた。返答に困った私は、
「いえ、そんな、私は出来ることを出来る限りやっただけですから」
と、しか返しようが無かった。
しかし私はこの時とっさに私の素性はこのドルセンという人にも詳しく伝わっているのかとミーナに伝達した。大丈夫なのだろうか。
『そのようです。でもドルセンさんは情に厚いお方ですし、私を信用して下さっている方ですので大丈夫です。それよりも』
と、伝達が切れた。
「ドルセンさん、なぜ首都に。本来の職務でないにもかかわらず、ギュリア調査の時には必ず現地に向かわれると聞いていました。いくらトルナス村が遠くないからといっても調査が終わるには早すぎます。どうして」
「確かに調査は重要だ。けれども旧友の愛娘が危篤寸前にまで陥り、それを助けようと奮迅した御仁は普通なら死んでいる筈の状態の最中、どうしてここを離れる事などできようか。ミーナとヴァイクは私の親友であった君達の父オーグスの忘れ形見で私の子も同然に思える存在なのだよ」
悲しみを滲ませるような震え気味の声で答えていた。本当に情に厚いお方の様である。
「ドルセンさん……」
「ドルセンさん、ミーナの事、私の事を思って下さり、ありがとうございます」
そう二人が言い、しばらくの沈黙があった。
暫くしてヴァイクが本題に入っても大丈夫かと全員に聞くと、「そうだった」とドルセンは気を取り直して、色々と尋ねたいことはあるがとにかくも衣食住が揃わないことには二人共困ってしまうだろうから、オーグスの所有していた騎士団中央本部敷地内の家に住むのはどうかと持ちかけてきた。
ミーナは霊人で限りなく低いとは言え誘拐される可能性が無いとは言い切れないし、その家には霊術や歴史的文献を守る場所となっていて結界も張ってあるから安全、との事だ。
ミーナの誘拐を心配する理由は旅の途中の話で何となく想像がついていたし、詳しいことは後でミーナかドルセンに聞くことにした。家に関してはミーナさえ良ければ私はどこでも構わないのでミーナに尋ねるとそれで良いとのことである。
私達、特に私が病み上がりであることを気遣ってか家に向かって落ち着いた方が良いのではないかとのことをヴァイクが切り出した。ドルセンも他の事についてはゆっくりと時間の取れる時にしよう、とのことである。
「ミーナ、ドルセンさん、ヴァイク。ありがとう、住むところまで手配してもらって」
と、礼を言うと三人共気にしなくていい、と言ってくれた。その後ミーナから、
『何をいまさら言うんですか。それよりもそろそろお昼時ではないですか?』
その様に伝達が入って、そう言えば朝食をとっていない事に今になって気がついた。
女の子がお腹減ったなんて大っぴらに言うのは何かと恥ずかしいのもあるだろうと考え、ヴァイクにこの辺りにオススメの飲食店はあるかと尋ねると、
「ああ、そういえばもうそろそろお昼時ですもんね。うーんと」
そうやってヴァイクが考えている時、ドルセンに騎士団の食堂でいいならすぐに食事できると勧められた。
今の時間帯なら騎士達も食堂は使っていないらしく、ミーナも賛成したため食堂の場所を教えてもらい、いざ向かおうとするとドルセンに呼び止められ十一枚綴のチケットを二人分貰った。
何でもこのチケット、食堂の物の大半はこれ一枚で注文できるようで便利だから持っていってほしいとのことだそうだ。チケットのことについて礼を言いミーナと再び食堂へ向かっていたのだが何やらミーナがとても楽しげである。
「ここの食堂には確か、あの缶詰の料理があるんです。随分前に来たことがあった程度なのでドルセンさんが言うまで思い出せませんでした」
なる程、缶切りが苦手でも料理されていれば食べやすいのだ。
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