第14話 緩やかな回復、日にち薬 6/1-6/3
ぼんやりした目覚めだ。軽く辺りを見回したが誰もいない。ミーナは別の所で治療中なのだろう。そう思っていると戸が開いた。
「お、起きてたのか。しっかしよく眠るもんだねえ」
イルミナだ。そう言えば今が何時なのか分からないので聞いてみると十三時であるらしい。
「昨日からあんたは丸一日寝てたのさ。仕方ないだろうねえ、霊気を回復させる最高の方法は寝る事くらいだからね」
イルミナによれば二十四日のあの時点で私の霊気は完全に枯渇しており、まさしく死の淵にあったのだという。そこから何とか僅かに霊気を戻し、大掛かりな生命維持をしてようやく三十一日に意識が戻った、とのことである。目覚めるかどうかも怪しかったらしい。
ミーナの霊気は霊気渡しによって何とか「消滅」を免れ、二十七日には回復していたという。
「そうか、ミーナは何ともなくて良かったよ」
「その後が大変だったんだよ……病室のあんた見て取り乱しに乱して過呼吸になった挙句、また倒れたんだから」
と、イルミナは更に続けて、
「安静にしときなさい、って言ってもすぐにあんたにすがりついてずっと泣いてるんだから困ったモンだったのさ」
と、伝えてきた。
私が目覚めた後は大分と落ち着いた様で今は自分の治療を受けているのだという。
まあ、ミーナが無事で落ち着いているならそれでいい。そう思ったところで強烈な眠気に襲われた。
「ああ、暫くあんたは日に一、二時間も起きてらんないよ。四日くらいまではそうだろうねえ」
嘘だろ、と思ったが本当にそうらしい。起きてからまだ一時間すら経っていないのだ。
「起きるって言っても今みたくぼんやり目が開くって程度だ。四日まではずっと眠ってると思った方がいい」
これではミーナと話もできんなあ。
そう思ったところで意識がきれた。
ふと目が覚めた。夢か
「おはようございます、ルカワさん」
ああ、ミーナの優しい声だ。
「おはよう、ミーナ」
「先日はとても取り乱してしまいました……ごめんなさい」
「大丈夫だよ。それよりミーナの方はどうなんだい?」
ミーナが言うに、彼女自身は霊人気質という事もあってほぼ完全に回復しているが私の近くにいると私の回復が早くなるのでここにいるらしい。霊気を使わせているのではと思ったが本当に近くにいるだけでいいのだそうだ。有り難い話である。
そうだ、アレを聞こう。
「昨日イルミナから、霊気が『消滅』する、っていうのを聞いたんだが一体何なんだ?」
「そうですね……長くなってしまうので詳しくは後で説明しますが、一口に言えば霊人がかかりやすい症状で霊気枯渇より危険です」
「そりゃ危ない。何とかなって良かったよ」
色々とその先を話そうとしたがまたしても強烈な眠気が来てしまった。
「ゆっくりお休み下さいね」
その声を聞いて眠りに落ちた。
ミーナより先に寝るのはあまりなかったな。
またしても夢か現か分からぬ目覚めだ。厳密に言えば目覚めるまで一切夢を見ないので夢か現かなどというのも変な話ではあるが。
さて周りを見ると今日はどうやら二人いるらしい。
「お目覚めですか? ルカワ殿」
その声はミーナの兄、ヴァイクだったかと思っていると、
「おはようございます」
ミーナの声が聞こえたので今日はミーナとヴァイクがいるのかとぼんやり思い、
「おはよう、二人共」
と、返した。
「やはり意識がはっきりなさらないご様子ですね。ミーナからルカワ殿の事は聞き及んでいます。本当にありがとうございました」
「いやぁ、すまいないね、ヴァイクさん。こんな素性もよく分からん人間が妹の付き人みたいな事をしてしまって」
本当にそうである。よくよく考えれば兄としては妹の事が心配でたまらないであろう。だが変わった返事が出てきた。
「いえ、ミーナが信頼出来る人だと言ったら、それは本当なんです。ミーナは人の悪意や害意、少々の嘘なら見破ってしまうんです」
真贋を見抜く才を持っているというのか。驚いてミーナに聞くと、
「はい。実はそうなんです。言いそびれていましたが私にはそんな力があります」
と、返ってきた。
ああ、だからあの時正直に話しても怪しまれなかった訳か、なるほど阿呆で良かったなぁ。
「でも、嘘を見抜けるか見抜けないかに関わらず、ルカワさんの事は信頼したと思います」
「あはは、そう言ってもらえると嬉しいねえ」
そんな話をしていると当然と言えば当然の話題が出た。
「あの、ルカワ殿、私の事は呼び捨てでお願いします。丁寧に話されると少々むず痒いというか」
兄妹揃って同じことを言うものだなあ。なんだか可笑しくなってきた。
「了解、ヴァイク。でも私に対してもなるべく砕けて話して欲しい。それこそむず痒いんでね」
「分かりました、ルカワ殿、あ、いや、ルカワさん」
「うふふ、兄様ったら」
「ミーナだって最初はこうだったろう?」
「むう」
なんだか更に可笑しくなってきて三人で笑っていると、眠気が迫ってきた。それをミーナは感じ取ったのか、
「そろそろお休みのようですね」
と、私に声をかけ、
「では、私はこれで」
そう言ってヴァイクが出ていったのを最後に私は眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます