第12話 小説の主人公 5/24
叩きつける様な雨音とミーナのうなされる声で飛び起きた。
うなされ方が尋常ではない。悪夢から来るものではなく身体の異常からのものだと直感した。
「ミーナ! どうした、ミーナ!」
声をかけても荒い息遣いが返ってくるばかりで返答がない。
どうする、どうすると焦っているとミーナの上着から地図らしきものが落ちた。見てみると首都と村の位置が示されており、昨日までの移動距離であろう赤線が引いてある。
それを見て驚愕するよりなかった。何故なら到底「七日」で到着する距離ではなく、仮に騎士団が向かってきたとしても最速で「十二日」、六月一日までかかる距離なのだ。
……なんて事だ。
何故ミーナがそれを言わなかった等はどうでもいい、とにかく彼女は重病人、なんとかして早く首都まで行き医者に診せねば不味い!
考えるより先に手が動いた。
感情だけで動いた。
先ずは私の霊気を送る、それも極めて優しく、だ。送ると思い切り引っ張られそうになったが咄嗟に調整して何とかなった。相当霊気圧が弱っている。
だがこれで霊気は何とかなる、足りないなら全部あげてもいい!
とにかく首都へ!
ミーナに私の上着を着せ、おぶってから帯で固定する。
雨に打たせる訳にはいかない、帯霊気をミーナにかけ、風を纏わせ雨を弾く!
普通に走っても時間が足りない、風で地を蹴り駆け抜ける!
「すぐに着くからな、ちょっと辛抱してくれ」
そう声をかけて駆け抜けた。不思議と最短の道が頭に入っていた。
地を抉り、風を裂き、雨を切り、川を飛び越え、森を突き抜け、崖を飛び降り、岩を乗り越え、倒木を吹き飛ばして走り続けた。
足やら膝やら脛やら何やらが痛い気がするが関係ない。
滅茶苦茶な事をしているのはわかる。ありえないだろう。だが出来ている。
何でも構わない、とにかく速く、もっと速く!
彼女を助けられるのなら何だって構うものか!
私がこの世界に来て、始めて出合って、そして見も知らぬ私を信用し、頼ってくれている、死力を尽くす理由はそれだけで十分だ!
ミーナを死なせる訳にはいかない!
私は信頼に応えなくてはならない!
今の私に四肢の痛みも理性もいらぬ!
ミーナの苦しみを想えばそれは些末だ!
「間に合ってくれ……!」
時間が無い、急がなくては!
事は一刻一秒を争うのだ、私にもっと速さを!
走る、いや減速無しの低空飛行ジェット機のそれでいい、壊れても構うものか!
帯霊気はもうミーナにだけかかっていればいい、私の分は彼女に!
壊れかけた彼女の心を想えば私の身体など壊れて構わない!
「ぐっ……! まだか、まだなのか!」
全身が流石に不味い事になってきたか、いやまだだ!
ミーナの痛みを想えば何ともない!
『どうした! ミーナ! いきなり伝達が入ったぞ!』
ようやくか! ミーナと繋がっているから分かる!
「今ミーナは重病だ! 詳細は後! 医者を頼む!」
『分かった、すぐに手配する!』
細かい事を言う暇が今はない、すんなり通って良かった。
『誘導を配置する! それを辿ってくれ!』
「助かる!」
速度を更に上げて走ると騎士らしき者が誘導灯を振っている。
よし! もうすぐだ!
首都へ走り込み、埃を巻き上げ、看板を飛ばし、街灯をひしゃげさせ、壁を蹴って角を曲がり、ようやく病院に着いた。
兄らしき人物もいる。ミーナも息が落ち着いている。
「着いたよ、ミーナ……お兄さん、後はよろし……く」
そこから先の記憶はない。
――ははっ、小説の主人公みたいじゃないか
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