23-4
センチュリオンと照月(てるつき)アスカの睨み合いは、思わぬ展開で幕を閉じた。
「それでも! 自分は炎上している作品を放置はできない! 放置して無法地帯にしてしまうのは――もう二度と経験したくないから!」
照月の一言に対し、センチュリオンが返した言葉は思わぬ物だったのである。
「二度と、か。実現には程遠いが、不可能ではないのかもしれない」
そして、センチュリオンは別の場所へと向かってしまう。アルストロメリアと戦う気力がなくなったのだろうか? しかし、彼女の向かっている方向にはあるのは……。
「センチュリオン――」
照月はセンチュリオンの歩いて行った方向を見て、ふと疑問に思う部分はあった。ARでプレイする訳ではないという事なのか? それとも、本当に自信喪失となったのか?
その後、照月は改めてB館の方へと向かう事になった。長門(ながと)ハルも同じく、照月に付いていくかのようにB館へと向かう。
「こちらは特に向かう必要性もないか」
ビスマルクは、照月の方に同行しようとも考えたが、こちらの方が面白そうになると考えて同行はしなかった。単純にストーカーと認識されるのを恐れていた可能性も高いが、真相は定かではない。
(ダークフォースの騒動を一言でまとめられるような気配ではないのに加えて、今のセンチュリオンを踏まえると――)
ビスマルクにも若干思う所があり、結局はどちらも追わない事にする。全ては、SNS炎上をしないようにする為だ。
センチュリオンと照月の遭遇から五分位は経過しただろうか? 同じヒーローブレイカーの前に姿を見せたのは大和(やまと)だった。彼女は私服ではなく、ARゲーム用のインナースーツ姿なのに周囲が一瞬でも振り向くような様子も見られない。
(既に他のプレイヤーが訪れた? この様子は一体?)
今回は三笠(みかさ)が別行動をとるという事で、ここへは単独でやって来たのだが――周囲の様子を見て若干動揺をしているようでもある。しばらくして、センターモニターにライブ映像が表示された際には、そちらへと視線が集中していた。
「あの人物は、まさか?」
大和が予想外と驚く人物がセンターモニターに表示されていた事は、周囲のギャラリーにも伝わっている。その人物の正体とは、何とセンチュリオンだった。プレイヤーネームを見れば一目瞭然だが、アバターがダークフォースで行動していた時期等とは全く違う。その外見は今までがダークヒロインだったのに対し、今度は正義のヒロインと言う変化を見せたというべきか。
(センチュリオンに、照月まで!?)
最終的に、センチュリオンはVR版のA館、照月はAR版のB館でマッチングをしていたのである。これにはさすがの大和も驚きを隠せないでいた。一体、何が彼女たちをそうさせたのか?
マッチングカードに関しては、アルストロメリア側は照月一人だけ、対するセンチュリオンも一人だけだ。残り二人のプレイヤー枠もPCなのだが、別店舗のオンラインマッチングプレイヤーである。
(レイドボスは固定ではない以上、以前のパターンと同じになるのか)
照月は今回のレイドボスが、以前のヒュベリオンと同じようなタイプで移動式と言う事を踏まえ、ペース配分も考えていた。パワードアーマーである以上は機動力がカギを握る。全ては、細かな秒刻みとも言える動きが物を言うだろう。
(ボスの行動パターンは読めた。後は周囲のアンノウン次第か)
センチュリオンは初期配置を確認し、そこから最短でレイドボスへたどり着く為の距離を計算する。使用しているのがESPなので飛行能力を使えば早いだろうが、周囲の建造物等を踏まえると飛行して移動しても時間としては同じ位だろう。
「どちらが勝つと思う?」
「これは分からない。あくまでもオンラインマッチングだが、イースポーツ大会の予選ではない」
「だからこそだ。大会予選ではないマッチングで、このギャラリー数は異常だぞ」
「仮の話だが、勝つとすれば照月だろう。彼女の方がスキルレベル的にも有利だ」
「自分はセンチュリオンが勝つと思うな。関連動画を見れば分かるが、あの動きは常人に真似できないレベル。芸術的と言ってもいい」
「どちらが勝っても、大会の予選を通過する訳で絵はない。それは分かっているだろう?」
周囲のギャラリーは勝利者予想で盛り上がる。その一方で、ここまで異常なギャラリー数にアルストロメリアの他メンバーは驚くしかなかった。
「イースポーツ大会の予選があるというのに、物好きがいる物だな」
周囲のギャラリーの数を見て、呆れかえっていたのはアサシン・イカヅチである。この状況になる事は予想出来ていなかった為、ここまで集まったのは予想外と思っていた。
「それはこっちもよ。ここはイースポーツ大会の予選を既に終えている場所、今は別のゲーセンで行われているはずだから」
イカヅチと同じような反応なのは秋月千早(あきづき・ちはや)である。彼女も、昨日の状況を確認した上でこの店舗を集合場所にしたはずだった。それがこうなるなんて。
「まさか、こう言う事になるなんて予想外でしたね」
長門の方はA館の方に間違っては言った関係上、ここまでギャラリーに違いが出るとは予想外と言う感じである。むしろ、向こうよりもこちらを見た方が盛り上がると考えたのだろうか?
(こうなる事は予測していたのか。照月は――)
他のメンバーとは若干離れたモニターで観戦しているのは、木曾(きそ)アスナだった。彼女の場合は照月の合流前に別ゲームをプレイしていた関係上で、他のメンバーとは別行動になっている。
その頃、今のタイミングで草加駅に到着したメンバーがいた。それは撮影スタジオから移動してきた島風彩音(しまかぜ・あやね)と秋葉原から電車でやってきた天津風唯(あまつかぜ・ゆい)である。
「まさか、電車の中で鉢合わせとは」
島風の方は西新井辺りで準急の草加行きに乗った結果、そこで天津風と遭遇した。これには島風自身も笑わざるを得ない状況だろう。
「それはこっちの台詞。撮影があるなら、断っても別に問題はなかったのに」
天津風の言う事も一理ある。撮影自体は写真集で使う数ショットだけだったので、セットの準備を含めて一時間弱で終わった。そこから草加へと向かう事を連絡したのだが、向こうに伝わっているかどうかは分からない。それを踏まえて準急に乗った結果、北千住で乗り換えたと思われる天津風に会ったのである。
(センチュリオンがSNS上で炎上し続けている状況では、何が起こっても不思議ではないが)
天津風は未だにSNS上ではセンチュリオンが炎上している剣を踏まえ、罠を仕掛けている可能性も懸念している。しかし、ダークフォース関係の炎上は基本的に一部のアフィリエイト系まとめやパリピ等が遊びで炎上させている事がほとんどだ。仮に罠を仕掛けていたとしても、そこまで大規模な物を用意出来るような時間はないはず。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます