23-3

 センチュリオンがAR版のヒーローブレイカー筺体前に姿を見せたタイミング、そこには別の女性が待ち構えていた。その人物とは、照月(てるつき)アスカである。何時もの改造メイド服姿でいるのだが、今回は様子がおかしい。


「あなたがセンチュリオン」


 照月は怒りを抑えているような表情で彼女を見ている訳ではなく、単純にゲームの対戦相手が来たというべき表情で見ていた。既にダークフォースを巡るSNS炎上は、一部のアフィリエイト系まとめ等が炎上させてオワコン化させる為に意図的炎上をしているのみ。ダークフォース残党もガーディアンが摘発し、ほぼ壊滅したと言ってもいいだろう。


「誰から聞いた? アルビオンか? それとも――」


「プレイ動画を見て、何となく気づいていたわ。あなたがセンチュリオンだって」


 理由を尋ねるセンチュリオンだったが、その答えは予想外の物だったのである。まさか、自分のプレイ動画経由とは。普通、ダークフォース絡みで挑んでいたケースが多いので、照月もそちら経由で知ったのかと考えていた。むしろ、アルビオンの決戦である程度は事情を把握しているだろう。その上で、この受け答えだったのである。


「まさか、プレイ動画経由と堂々と宣言する様な人物がいるとは。しかし、そう言う人間だったな――」


 センチュリオンは照月の過去を何となくだが知っていた。ビスマルク経由の情報もあるが、それを踏まえると似た者同士かもしれないと。


「あなたがどのような人物だったのかはどうでもいいわ。とにかく、自分はあなたと戦ってヒーローブレイカーの真実を知りたい!」


「ヒーローブレイカーの真実か。SNS炎上も、ヒーローブレイカーにとっては――」


「それでも! 自分は炎上している作品を放置はできない! 放置して無法地帯にしてしまうのは――もう二度と経験したくないから!」


 照月の言葉がセンチュリオンに響く。しかし、彼女は理想で動く人物ではない。あくまでも、現実主義者なのである。その彼女が取る行動、それは目の前にいる照月と戦い、他のアルストロメリアメンバーとも対戦し、勝利する事だ。そうすれば、今までの事を水に流す事は不可能だが、SNS上で炎上している様な評価がひっくり返る可能性が高い。炎上が長期化して引退したゲーマー等は数知れないだろう。それこそ、SNSを戦場と例えるような人物がいる位に。



 照月がこの場に姿を見せたのは数分前の出来事である。その時は長門(ながと)ハルとも遭遇したのだが――。


「他のメンバーは? スケジュールが合わなかったとか?」


 長門の質問に対し、照月も周囲を見て何となく察した。時間を間違えた訳ではないのはスマホの時計を見れば明らかだ。それに、入口を見てもあのゲーセンであるのは間違いないと思っている。つまり、集合場所は間違えていない自信もあった。長門と合流したのは入り口で立ち往生していた彼を発見した事から。合流する事は既に話し合いで決めていたので、そう言う事なのか――と照月は思う。


 状況がおかしいと思ったのは、入口に入ってからのヒーローブレイカーの設置場所だ。入口すぐに置かれている事に違和感を感じたのだが、他の筺体を入れるのに配置変更をしたと判断する。


(店舗名は確認したはずだけど、間違えたかな?)


 色々と困惑しつつも、長門がいたので他のメンバーを探すついでで合流をしたのだが、状況は思わぬきっかけで悪化していた。それが、センチュリオンの出現である。センチュリオン自体はアルストロメリアメンバーを探す為にゲーセンへ訪れたのだが、いきなり照月と遭遇して今の状況になった。



 長門は遠目でセンチュリオンと照月のにらみ合いとも言える展開を見ているしかない。秋月千早(あきづき・ちはや)に連絡をしようとしても、さすがにスマホはまずいだろう。


(何か、連絡手段は――?)


 そして、連絡手段を探している際に発見したのはビスマルクだった。ビスマルクは長門の事を知らないように思えるが。


(あの人物は、アルストロメリアのメンバーか?)


 ビスマルクは自分の方を見ている長門の姿に何かあるのではないか、と思う。しかし、何を伝えようとしているのかは分からない。そして、長門が早歩きでビスマルクに接近し、そこで自分を探していた事に彼女が気付いたのである。


「君は確かアルストロメリアの――」


 ビスマルクの方から口を開き、長門に事情を尋ねる。その後、長門は照月とセンチュリオンの一件を話した。このままでは炎上しかねないと考えての長門の行動だったが、これは慌て過ぎているとビスマルクは考える。確かに二人の遭遇したきっかけを考えると、炎上してもおかしくはない。しかし、ダークフォースを初めとした悪意ある炎上勢力は一掃できたはず。一掃できなかった残党等は存在するかもしれないが、それも草加市へ進出しているとは思えない。


「そう言えば、この店舗は――」


 長門が店舗名を言おうとした矢先、センターモニターの別プレイヤーのライブ中継で違和感の理由が判明した。どうやら、照月と長門が入った店舗はA館であり、本来の集合場所であるB館とは違っていたのである。


(入口も似ているのが仇になったか。そうだよね、あのゲーム置いてないもの)


 ビスマルクもあのタイミングでセンチュリオンに遭遇する事自体、何かおかしい物と考えていた。A館とB館を間違えていたというのであれば、納得の答えである。入口が似ているのであまり違和感を感じなかったが、落ち着けば分かる事だ。


 設置されている機種で共通しているのはヒーローブレイカーと最近入荷したというARパルクールだけで、それ以外はガラリと言っていいほど機種が違う。センチュリオンがここに来たのは、単純にA館とB館でヒーローブレイカーがあるで納得出来るが、ビスマルクがお目当てにしていたゲームはB館である。


「とにかく、二人の様子を見ましょう。ますはそれから」


 ビスマルクの言う事も一理あるので、長門は連絡するのを中止する。まずは、二人の様子を見極めてから――。

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