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 午後五時、夕方のニュースでもダークフォースの話題は取り上げられる事はなかった。何故、ここまでスルーされているのか? 自宅に戻り、居間で四十インチ位のテレビを視聴していたのは三笠(みかさ)だったのである。


『まず最初に、株式市場のニュースです』


 最初に報道されたのは、株式市場で大幅な下落があった事。過去に千円も下がった事はあるのだが、今回は千五百円強も下がったという。何故にそこまで下がったのか? 原因はダークフォースではない。むしろ、ARゲームに対して不安要素が浮上し、投資家心理に影響しているようだ。


「様々な部分で不安要素が出始めている。その規模がSNSだけに収まっていない証拠か」


 特殊な金属製のタンブラーにはコーヒーが入っており、それに口を付ける三笠も今回の件に関しては放置しておくわけにもいかないという気持ちである。ヒーローブレイカーがイースポーツ大会の種目に入ったというのに、株価が下がるのには別の要素があったとしても不自然だった。つまり、明らかにダークフォースとも違う第三者の介入が全てを狂わせているのだろう。


(まるで、ARゲームが日本経済に影響しようとしているのを何者かが阻止している気配すら感じる)


 三笠が思ったのは、日本経済にまでARゲームが浸透しようとしている現状を、何者かがゴリ押しで阻止している状態だった。『カードゲームが世界に影響を与える』に代表されるホビーアニメのあるあるを否定する様な物であり、更に言えばそうなる事を望まない流れなのだろう。しかし、今回の株式市場はどう考えてもARゲームとは無縁に近いはずだ。それを無理矢理ARゲームと結び付けて炎上させようとしているのであれば、SNSをきっかけとしたテロ事件と言わざるを得ない。


(何だ、この情報は?)


 数分後、別のニュース番組を回している際にあるニュースが三笠の目に入った。それは、フェイクニュースに関する物だった。その内容は三笠の目を疑うような低レベルな内容である。


「感想を述べるに値しないニュースだ」


 三笠もこのニュースが取り上げられた事には腕が震えるレベルであるのだが、それでも内容には触れたくない。そのフェイクニュースは明らかに別の漫画作品を題材としたと思われる夢小説が土台であり、ヒーローブレイカーとは似ても似つかないような内容になっていたからだ。要するに、民放がまとめサイトでアップされていた二次創作の夢小説を題材としたフェイクニュースを堂々と報道した事が問題なのである。



 同じ時間帯、自宅に戻って夕食を食べていたのは照月(てるつき)アスカである。家の中でも改造メイド服は変わりない。汚れてしまったらどうするのか――と思われがちだが、実はストックが数着ある為に問題はないようだ。


「株式はやっていないけど、大変みたいね」


 同じ株式下落のニュースを見て、あっさりとしたリアクションを取る。そこまで重要と言う訳ではない一方で、投資家が投資をしなければARゲームの開発なども出来なくなる事もあり、何とかして欲しい所だろう。


 しかし、これは一個人ではどうする事も出来ない事例なので、自分で出来る事が限られるような事には手を出さない。下手に知識が乏しい事にも手を出して炎上してしまっては、それこそARゲーム終了待ったなしである。


(自分としては、炎上しないゲームを生み出すことこそが――)


 メガネをしていないが、あくまでもアレはARバイザーの代わりになっている物なので、家では使用する必要性がない。その一方で、ARガジェットの方はネットサーフィンをする為にも起動しているのだが。


「まずは、自分のプレイスタイルに足りない物を――?」


 プレイ動画をネットサーフィンしていくにつれて、照月は何かが抜け落ちている事に気付き始めていた。ヒーローブレイカーを始めた頃のワクワク感、それが今の自分には抜け落ちていたのである。


(そうか。今の自分に足りなかった物、それはプレイして楽しいと感じる事だったのね)


 照月は確信した。今の自分に足りなかった物、それは他人に指摘されて見つけるという手段でもいいだろう。しかし、彼女は自分でたどり着いた。それが彼女にとっても重要なターニングポイントなのかもしれない。


「そして、今の現状でこの記事は見る気もないわね」


 その一方でプレイ動画はチェックしても、あるニュース記事にはノータッチだった。その記事はニュース番組でも触れられていたフェイクニュースに関する物で、テレビで流れたのをきっかけに、SNS上で大炎上をしている。


 

 このニュースに関してはアルストロメリアメンバーの目にも入っているが、今は自分達のやるべき事を優先していてスルーしている傾向だろう。それ以外にも三笠以外でニュースを集めているメンバーは皆無に近い。唯一の例外がいるとすれば、彼女位か?


「やっぱり、ダークフォースの壊滅は決定的になったのか」


 SNS上のニュースを見て、天津風唯(あまつかぜ・ゆい)は情報の整理を行う。そこで、あるまとめサイトが元凶だというのを突き止めた。このサイトはダークフォースが暗躍する前から運営されている物で、下手をすればダークフォースよりも活動の時期は古い。


「それに、本来であれば一次創作のWEB小説を切り貼りし、更には他の版権作品も混ぜて――夢小説風にして炎上させているのも、たちが悪い」


 この現状を打破する為にも、天津風は別のニュースサイトも調べて証拠を集めようとしている。全ては、ヒーローブレイカーが正常運営出来るようにする為だ。超有名アイドル商法で炎上したあの事件を繰り返してはいけない。


(こうした案件は、あってはならない物。SNS炎上以前の問題にもなりかねないわ)


 彼女はタブレット端末でサイト検索を行っているが、その手先は非常に器用と言える物だったのである。まとめサイトを数個通報するのは簡単でも、今回は民放のニュースで報道されているので拡散速度は比較にならない。それに、一時間に百以上はクローンサイトが出来ているので通報してもモグラ叩きのようにエンドレス化していた。


「何としても、全てが取り返しのつかなくなる前に――」


 天津風は今回の炎上が下手をすれば大規模テロに発展しかねないと考え、それを阻止しようと動く。アルストロメリアも目的は似たような物だが、自分の考えは彼女たちに押し付けるわけにもいかないので、今回に限っては単独行動である。

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