16-3

 午後二時、あるプレイヤーがセンチュリオンのプレイ動画を視聴している。その内容は彼女が無双をするようなプレイではないのだが、あの謎メッセージにも言及した動画なのは間違いないだろう。


『これが、彼女の望む形なのか?』


 それを見ていたのは、足を止めてモニター前に立っているアルビオンだった。彼も別所へ向かっていたが、向こうでは援護不要と言う事で戻ってきている。


(しかし、彼女はゲームバランスに関して――)


 彼女が何を言っているのかは彼も理解に苦しんだが、ある箇所を踏まえて疑問に思っていた。センチュリオンがゲーマーになったきっかけは、ゲームバランスで炎上する現状に対して不満があった部分を踏まえた物である。


 今の彼女の行動はゲームバランスを完全無視しているような行動とも見て取れるだろう。あそこまでSNSに流されるような人物なのかも――アルビオンには疑問に思っていた。


『それ以上にダークフォースが援軍拒否をした事が解せない。エリアによっては壊滅しているというのに』


 アルビオンは様々なSNS上のニュースを拾い、ダークフォースが実は一部エリアで不利になっている事を知る。つまり、援護不要と言った人物はもしかすると現状把握能力が欠けていた可能性も否定できない。


『どちらにしても、この状況になった事を向こうは予測できていないのかもしれないな』


 援軍不要と言った人物、彼はもしかするとこうなる事を予測できていなかったのだろう。SNS上で自分達が有利というニュースだけを見て、勝利を確実と思いこんで援軍不要と言ったのであれば、明らかに読み違いなのは間違いない。


『狭い視野しか彼らは見ていなかったという事か。これは思わぬ所で彼らを過大評価し過ぎたという事かもしれないな』


 アルビオンは密かに様々な場所へダークフォースの情報を横流ししている。アフィリエイト的な利益を得た訳ではないが、見返りを求めてもない。その情報をどのように生かしているのかを確認して、どのような情報拡散をしているかを観察している。それが見返りの代わりと言えるのだろう。その為、彼らの行動に関しては様々な個所で評価をしていた。SNS炎上を防止する為の対策等を売り込む為にも、彼らの行動が必要不可欠だったからである。


『所詮、彼らは過去の栄光にすがっているだけの邪魔者でしかなかったのか』


 今回の一件がアルビオンの離脱を決定的とした。その証拠として、彼のアカウントは既に削除されていたのである。どうやら、彼が情報を渡していた先にはガーディアンとは別のゲームメーカーなどもあり、そこから何かを指示された可能性もあるだろう。


『さて、この後はどう動くかな? アルストロメリア』


 彼はセンターモニターに表示された、照月(てるつき)アスカと秋月千早(あきづき・ちはや)のプレイ動画を見つめ、つぶやく。真の敵はダークフォースではなかったのである。彼らはSNS上の動向を見極める事も出来ず、様々なフラグ等によって強制退場されたと言ってもいいだろう。



 午後三時、ビスマルクのバイトしているゲーセンではヒーローブレイカーをプレイする客が若干減り始めているように見えた。むしろ、満席が常時続いた方がゲーセン側にとってもうれしいのかもしれないが、メンテ的な部分を踏まえると満席が続いては部品の交換もしづらいだろう。


(ARゲームであれば、ガジェットは自前で用意するプレイヤーが多いが、VRではそうもいかない)


 ギャラリーは増えているのに、プレイヤーは増えない状況を見てビスマルクはつぶやく。彼女としてはAR版のプレイヤーが増えて欲しいという事なのかは分からないが、VR版が混雑する現状を喜んでばかりもいられないのだろう。


「そういえば、まもなく発表されるそうだが――」


 男性スタッフの一言を聞いて、ビスマルクもそれが何かを尋ねようとする。しかし、VR版筺体近くに設置されているセンターモニターではいち早く何かを伝えているらしく、そこにギャラリーも集まり始めた。


(これは!?)


 センターモニターへ近づけないので、ビスマルクは遠目で見ていたが――。


「仮だから変わるだろうな」


「まさかの展開と言うべきか。一連の炎上案件もある程度は解決しているが、全部が決着した訳ではない」


「むしろ、格闘ゲーム系が独占な状況になると思っていた」


「リズムゲーム系は、さすがに楽曲の権利的な問題で保留になったのか?」


「そうなると、ヒーローブレイカーは繰り上げか何かで決定したと?」


 ギャラリーの声を聞き、ますますモニターで流れていたニュースが事実なのだとビスマルクは把握する。それが決まった瞬間、彼女の手は謎の震えを感じたという。



 午後四時、わずか二時間弱でダークフォースのパリピ勢は一掃される結果になった。確かに勝利したエリアはあるのだが、そのエリアは指折り数える程度である。それに、彼らは明らかに戦略の読み違いをしていた。


「明らかな戦略ミスか。どちらにしても、ダークフォース一掃後の動向待ちか」


 秋葉原でペットボトルのアイスコーヒーを口にして、センターモニターのニュースをチェックしていたのは天津風唯(あまつかぜ・ゆい)である。彼女は様々な場所でニュースを集めているのだが、どうしてもダークフォースの真の目的が分からずにいた。


「ダークフォースがどのような理由で、ヒーローブレイカーを炎上させようとしたのか――?」


 センタモニターを見て、天津風はあるニュースに目が止まる。その内容とは、イースポーツイベントの開催に関する物だった。対象タイトルには様々なゲームタイトルが並ぶ中、ヒーローブレイカーのタイトルも仮扱いだが含まれていたのである。


(まさか、このイースポーツタイトルに含まれたから炎上させた? そうすると、前々からの炎上は何だったのか)


 天津風は、今回の決定に関してセンターモニターで扱っている以上は公式だと把握していた。それでもあのタイミングでヒーローブレイカーが決まったのも納得はいかない。フラグも何もないような状態で、唐突に決まったと言ってもいい気配だったからである。


「それにしても、ダークフォース関連のニュース位が入らなくなっているのは情報規制なのか?」


 センターモニターで『ダークフォース一斉摘発』の一報以降、何も報道されていない状態に何かあると――タブレット端末でニュースを検索する。しかし、まとめサイトで取り上げられるような話題でもなく、閲覧数的にもダークフォースの話題は少ない。


「今の話題は、何処もヒーローブレイカーのイースポーツ大会への対象作品になった事位か」


 ヒーローブレイカーのメーカーとしては、ある意味でもダークフォース関係の事件はイメージダウンに近いだろう。しかし、そこに大きく言及する事はない。一部報道に関する報告等は公式行っているようだが、そこでダークフォースを具体名で取り上げる事はなかった。彼らがダークフォースの名前を出さない事には何か理由があるのか? その真相はいまだに不明だ。しかし、それはもはやどうでもいい位にイースポーツの話題が拡散しているのも事実である。


(ユーザーの需要もあってメーカー側も動いている、対立と言っていいような物がないのも)


 イースポーツのタイトルを決める際、主催者側もユーザーの需要等をSNSで確認し、それを大会に使えるか交渉を行う。メーカー側の理解が得られなければ、該当作品は大会には使えなくなる。おそらく、ヒーローブレイカーもメーカー側に交渉はしていたのだろう。


 しかし、一連の事件もあって大会側が自分達のイメージダウンを恐れて交渉取り消ししようとした矢先に、メーカー側から許可が下りたのかもしれない。


「ダークフォース事件は全て解決し、これからはイースポーツ大会に向けての新章とでも言いたいのか――」


 天津風は、今回の動きになった事に関して全てが把握できたわけではないだろう。全てはこれから確認するのかもしれない。ダークフォース事件が予想外の箇所で幕引きとなる事もメーカーの陰謀説と言う事もSNS上で言及されるが、それを言及したまとめサイト等が逆に炎上するレベルでイースポーツ化は歓迎されていた。全ては、ここから仕切り直されるのだ、と。

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