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 四月四日午後二時頃、ネット上で話題になった動画が存在していた。その動画の投稿日自体は今回より大分前で、違法動画やフェイク動画の類ではない。ある意味でも本物である。


「そう言う事か――おのれ、ヒュベリオン!」


 コンビニの外である人物の来るのを待っていたのは、三笠(みかさ)だった。待っているのは大和(やまと)ではない。思わず持っていたスマホを握りつぶしそうな勢いだったが、そんな事をしてもその写真をSNS上に拡散され、炎上するという展開なのは目に見えていた。



『せんべいだけではありません。草加市は、今新たな聖地巡礼地として注目されています』


 とある動画でナレーションの女性と思われる声で、開口一番に出てくるのがこれだ。動画内で流れているのは、草加駅近くのビル街とも言える光景、最近になってオープンしたショッピングモール、ゲーセン、改装された草加市役所――。


 その中でも異色だったのは、草加せんべい等を宣伝し、新たな食と言えるようなたこ焼きっぽい謎の食べ物をアピールしつつ、ある物を集中的に取り上げている点だった。


『ARゲーム、様々なエリアで発展途上だったこのゲームを本格的に発展させたのは、我々です』


 このメッセージが流れてからは、動画内でもARゲームがピックアップされている。様々なジャンルのゲームが流れている中、ヒーローブレイカーだけは未だに流れていない。


『近年になって注目されたイースポーツ、ARゲームもその枠内に入ってもおかしくはないはずでしょう』


『将来的には、ARゲームも他ジャンルのゲームと同じように、イースポーツとして拡散し、世界中でプレイヤーが増える事を祈ります』


『その先頭に立つのは、日本であるのは間違いないでしょうが――発見したのは我々草加市です!』


 その後も動画は続くのだが、停止させることなくそのままBGMとして流し続けていた。その為、三笠は動画の後半に当たる内容はスルーしているのかもしれない。


『日本にリードできるコンテンツは様々ありますが、今やARゲームをリードしているのは草加市と言ってもいいでしょう』


『過去には足立区などでも展開されていた時期もあります。しかし、それらは悪質なユーザー等乃問題に歯止めをかける事が出来ずに撤退したと言ってもいいでしょうか』


『草加市は、一度はオワコンとネット上で炎上した事もあるARゲームを再生させ、新たな事業も展開する事で新規事業として立ち上げたのです』


『新たな可能性を持った拡張都市群、アニメやゲームでしかなかったような体験を出来る場所――それが草加市なのです』


『皆さんも、新生したARゲームを目撃する為に草加市へとお越しください』


 動画はこのタイミングで終了した。二分弱とはよく言った物である。



 しばらくして、三笠の目の前に姿を見せたのは天津風唯(あまつかぜ・ゆい)だった。どうやら、待ち合わせしていた人物は彼女らしい。どのような要件なのかは――。


「天津風、お前に聞きたいのはこれだ」


 三笠が自分のスマホ画面を天津風に見せる。そこにはヒーローブレイカーのサイトが表示されていた。サイトと言ってもまとめサイトの部類ではなく、公式ホームページである。それを見せないと、ある意味でも不親切だろう。


「そのゲームは、まだプレイをしたことないけど、秋葉原でも稼働しているみたいね」


 天津風はプレイした事のないゲームの事を聞かれるとは――と複雑そうな表情を見せる。そこから三笠に対して『察しろ』とでも言いたそげだが、それで引き下がる人物ではない事を彼女は知っていた。


「余は様々なWEB小説サイトを巡り、ARゲームのルーツを探していた。その時に発見したのが、天津風――」


「そこまで分かっていて、別の事を聞かないで名前だけしか知らないようなゲームの事を聞く、と」


「こちらとしてはタイムリミットが迫っている。ダークフォースの動きは、貴女も把握しているのでは?」


「確かにダークフォースの放置は危険だ。しかし、日本にはそちらばかり注視している余裕があるのかな?」


「ダークフォース以外の勢力は、ARゲームに無関係も同然だろう。日本政府や芸能事務所が裏で操っていたとしたら、それこそ超有名アイドル商法の時と同じ事が起きる」


「まぁ、ARゲームをデスゲームと拡散する様な連中がいる限りは、SNS炎上はダークフォースだけで終わるとは思えないけど」


 二人の話が続く中、天津風の視線にあるゲーム画面が入ったのである。それこそが、ヒーローブレイカーだ。VR版は早い段階で秋葉原でも稼働していたが、AR版は初お披露目となる。過去に似たようなARゲームも稼働していただけに、見覚えもあるギャラリーもいそうだが。


「とりあえず、自分はこの辺りで失礼させてもらうわ。タイトルと内容を見た以上、放置はできなさそうだし」


 そして、天津風は三笠に背中を見せることなくすれ違いで去る。もちろん、彼女の目当てはヒーローブレイカーだった。


(あのゲームに隠された意味を見つけるには丁度いい頃合いかもね。自分は主人公には向いていないけど)


 あまりにも自分では地味なのか、それとも単純にやる気がないのかは不明だが主人公と言う言葉を天津風は気にしている。ヒーローブレイカーでは『誰もが主人公になれる』とゲームサイト等でも言及されているが、マルチシナリオ等でもない限りは主人公が設定されている物だ。


 格闘ゲームでも物語の中心となる主人公キャラはいるし、ギャルゲー等でもプレイヤーが主人公と言う作品だってあるだろう。ヒーローブレイカー自体がゲームなのでフィクション前提だろうが、いくらなんでも――と思う節もあった。

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