5-4
(乱入者? 初心者に近いようなプレイヤーを抱えているこちらに挑む理由は?)
ESPを使用し、服装も軽装スーツとARメット姿の秋月千早(あきづき・ちはや)も驚くしかない。この乱入に関しては、向こう側に利点がないような要素が多いからである。
「これって? 未確認プレイヤーってあるけど」
パワードスーツと言えるかは微妙だが、マイナーアニメを思わせるようなスーツデザインにソード系ガジェットを構えているのは照月(てるつき)アスカだ。改造メイド服がどうなっているのか疑問がある位のスーツには、周囲も驚いている様子だが。
《未確認プレイヤー接近中! 警告! 未確認プレイヤー接近中!》
照月が驚いていたインフォメーション、それは格闘ゲームにおける『挑戦者現る』と同じ意味だった。つまり、この表示が出たという事は乱入プレイヤーが現れた事を意味している。AR版とVR版ではシステム的な違いもあり、マッチング段階でVR側と対戦する場合はAR側の乱入は不可なのだが――。
(相手プレイヤーの表示アイコンが、まさか?)
秋月は何時もはVR表示のアイコン部分を見て、形状が自分達と同じ事に気付く。つまり、相手も同じAR版のプレイヤーなのである。
「AR同士の対決か?」
「この場合はボスレイドをどちらが先に撃破できるか、だろうな」
「普通に対決をする訳ではないのか」
「それだとAR対戦格闘等と被る可能性が否定できないな。ヒーローブレイカーでは不思議な事に実装はされていない」
「しかし、対決ではなく協力してボスレイドを倒すと言うのも本作の醍醐味だが」
周囲のギャラリーはARで参戦するプレイヤーがどのような人物なのかは気付いておらず、単純にAR同士の対戦と言う事で盛り上がっている。一体、彼らは何を思ってレイドバトルを観戦するのか。
「あのプレイヤー、明らかに一人じゃないのか?」
「厳密には三人いるようだが、二名は店舗違いらしいな」
「じゃあ、残り一人は?」
出現したプレイヤーは三人である。ヒーローブレイカーでは三対三が基本ルールなので、他の二人はARでも別のゲーセンからの参戦だろう。しかし、一人は明らかにこのゲーセンでのプレイヤーだ。これには周囲も驚きを隠せない様子である。
もしかすると、一人のプレイヤーが乱入を設定して乱入したのかもしれないが、そう言った詳細は照月及び秋月も分からない。この辺りは個人情報特定と言う観点からプレイヤーには分からないようになっている可能性もある。
『お前達が、噂のプレイヤーか?』
唐突なチャットメッセージに対し、二人は対応しきれない。まだボスレイド戦ではないので、メッセージ入力の余裕もありそうだが。それ以外にもチャットメッセージのテンプレやチャットアイコンを使う事も可能である。しかし、照月にそこまでのスキルがあるかどうかも疑わしい。
(チャットメッセージ? プレイヤーネームは――?)
プレイヤーネームを見て秋月は、あの乱入してきたプレイヤーと把握できた。しかし、どう考えても協力プレイ要請の類ではないのは分かる。では、どういう理由でメッセージを送ったのか?
『貴様たちはARゲームを見出そうとしている存在だ。だから、ここで消滅させる!』
これもチャットメッセージだ。このメッセージに関してはプライベート扱いの為、プレイ動画の中継では流れない。チャットアイコンであれば公開されるが、このメッセージは入力メッセージでもあった。
メッセージを入力していたプレイヤー、その外見は明らかにヒーロー物では浮くであろう戦国時代の鎧武者姿である。
『ダークフォース、その名を広める! その手始めがこの私、アシュラだ!』
これも手打ちと思われたが、手打ちが面倒と判断しインカムを使用したようである。ボイスの方は加工されているような気配もする一方で、プレイヤーは男性だろうと秋月は予想していた。
『秋月! お前はARゲームで踏み入れてはいけないフィールドに踏んでいる。それは許されない事なのだよ!』
明らかに何か聞き覚えがあるようなテンプレ台詞だが、照月の方は覚えが全くない。秋月だけの思い違いなのか? その一方で、他のプレイヤーが既に近くに存在するボスレイドにダメージを与え始めている。アシュラに気を取られ過ぎたかもしれない。
アシュラの方は鎧武者なのに、使用する武器が刀である。しかし、刀の刃はビームの様な物であり、本物の刀と言う訳ではなかった。ARゲームで使用される武器の全ては基本的にCG演出で表現され、リアルで使用出来るような物ではない。
(出遅れた。しかし、向こうが近距離武装なのは不幸中の幸いと言うべきか)
秋月は、アシュラの使用する武器が近距離系で助かったと思っている。それを言うと照月も同じ近距離武器だが――。それ以外のプレイヤーは秋月を含めて遠距離系、攻撃力としては高くないので近距離系の一撃に頼る傾向だろう。
(遠距離って、あれだけ減る物なの? 急がないと――)
照月はレイドボスのライフが妙な減りをしている事に気付き、焦り始めていた。ゲームで焦りは禁物なのに、想定外と言える。変な汗が出ているかもしれないほどに、照月の集中力は欠けていたのだ。これでは自分達が負けてしまうのは明らかだろう。
「秋月、ボスレイドのライフを見て!」
照月は秋月に気付いてもらうためにメットについているインカムで叫ぶ。ボリューム調整はしているが、あまりの声の大きさに照月の方が逆に驚く位だ。ハウリング等は起こしていないと思うが――。
「ちょっとまって!?」
照月の声に驚いた秋月は、アシュラを気にするよりも先に行う事が出てしまったと気付く。明らかに相手プレイヤーが使用している遠距離武器で、ここまでライフが減る物なのか? 向こうが使っているのはガトリング砲だ。アシュラは遠距離武器を使っている様子がないのだが、威力的に疑わしい部分もある。
(相手は、チートプレイヤーだというの? それはさすがに常識を疑うでしょう!?)
秋月も通報を考えていたが、それよりもレイドボスを撃破する方が優先と考える。通報をしているうちにレイドボスのライフが0になってバトル成立の方がまずいと判断したためだ。
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