第43話 知ってますか? ヒカリゴケ事件

 その後、車を走らせること約30分。都内23区を少し外れたとある場所。都心からそう遠く離れていないにもかかわらずあたりは街灯も少なく閑散としている。車を止めて繁華街を歩くが、その半数近くはシャッターが閉まっているというありさまだ。かつては都心のベッドタウンとして人気のあったこのあたりも、人口減少があった今となってはすっかり老人だらけのさびれたエリアになった。まるで古い映画でも見ているかのように町並みはレトロな商売の店が目立つ。そんな繁華街からさらに一本路地を入り、いかにも胡散臭さがにじみ出る焼き肉店が、今時珍しいピンクのネオン管に照らされる看板で営業していた。『ヒカリゴケ』と言う店のロゴが一文字づつ順番に消えては点き、最後にヒカリゴケの文字全体がちかちかと点滅をする。確かにこんなお店にパーティードレスで入ったならさぞ浮いてしまうことだろう。

「なんでこんな場末なんでしょうね。さすがにこれじゃあお客さんも集まりにくいんじゃないですかね」

 あたしのつぶやきに堂嶋さんは半分笑いながら答える。

「たぶんそうでもないさ。むしろこういう場末であるほうが周りを気にせず入りやすいというものだろう。やはりそれなりに後ろめたさも感じる食材ではあるからね。特にこの町にの住人の多くを占める老人たちからしてみれば、若いころに人肉を食べるなんてことはとんでもないタブーだったわけだし、最近の若い子のように十歳の時に親を食べる習慣もなかった。だからこそ尚更一度は食べてみたいというのもあるのだろう。まあ、冥途の土産にと言うやつだ。あの世に金は持って行けないし、遺産を残してやる子孫もなくなってきたというのが現状だ。あるうちに使った方がいい」

 そう言われて、ママの言葉を思い出す。

『自分が誰かを食べたいとか、食べてもらいたいなんて言う感覚はないんだよ』

 まあ、それはきっと人それぞれなんだろう。そういえば、仏教、真言宗の総本山の高野山には路地裏にひっそりと一軒の焼肉屋があるという話を聞いたことがある。

 高野山に住んでいるのはそのほとんどが全国から修行のために集まった僧侶ばかりで、当然修行中の身であるため、基本的に食肉は認められてはいない。しかし、その路地裏の焼肉屋さんは毎日大繁盛しているという。

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