第25話 今回の特別ゲスト
瓜生家に到着したのは予定の時間の夕方五時の少し前、相変わらず無愛想な態度で家の中のキッチンに通された。
「瓜生様、本日は急なことではありますが、ゲストがもう一名増えることになりますがかまいませんか?」
――もう一名? そんな話は聞いていなかった。〝急なこと〟と言うくらいだから、堂嶋さんだってはじめから聞いていたわけではないのだろうけれど、だとしてそれは一体誰なんだろう? あたしには想像もつかない。
「もう一名? まさか、うちの母親だとかいいだすんじゃないだろうな? だったら断る。あったこともないような人間だ。そんな奴とは一緒に食事をしたいとは思わない」
「はい、瓜生さんの血のつながった母親ではございません。もし、その方が現れたとしても、その方には亜由美さんの体を食べる権利はありません」
「じゃあ、誰なんだ?」
「亜由美さんの親族の方です」
「親族? そんなのがいたのか? 母親は去年亡くなったって聞いていたけど」
「はい。今回のもう一人のゲストは亜由美さんの妹、荘厳美沙(そうげんみさ)さんです」
「荘厳って言ったら、あの人の旧姓だよな。妹が、いたのか……聞いたことなかったな」
「はい。わたしも知りませんでした。昨日、亜由美さんの元職場に行って初めて美沙さんの話を聞きました。調べたところ、たしかに血縁関係があり、今回、この食事に参加する権利があると判断し、本人の意思を確認したところ、ぜひとも参加したいとのことでした」
「ふーん、そうか。まあ、あの人の妹ってんなら仕方ないだろう。別にかまわないさ。どうせタダってことには変わりないんだからさ」
「かしこまりました。では、こちらに来るように連絡を入れておきます」
それだけの会話を交わしたきり、再び瓜生さんは奥の部屋にこもり、姿を現さなかった。
それにしても…… 堂嶋さんは昨日の夜、あのスナックではしゃいでいただけかと思っていたが、彼女の遺族を見つけてくるなんて、ちゃんと仕事をしていたんだなと気づいた。少しばかり軽蔑してしまって、その事には謝っておいた方が良いのだろうか……
それにしても、なぜ亜由美さんの妹は、今回の食事にあらかじめ招待されていなかったのだろうか……
あたしたちは夕食の準備に取りかかった。食事の予定時間まではあと二時間ほどある。実際、ほとんどの準備はアトリエで用意してきたのでやることと言ってもほとんどない。とりあえずあたしはこのきたない家をかたずける所から始めなくてはならない。果たしてこんなことがコックの仕事なのかと言いたくもなったが、よくよく考えてみれば普通のコックはお客さんが来る前に店の掃除をしているわけで、それを考えれば致し方のないことだとあきらめがつく。さて、堂嶋さんと言えば、まだ食事には時間があるというにもかかわらず、早速オーブンを加熱しはじめ、千屋牛のフィレ肉に塩で下味をつけ始めた。あたしはそっと傍により、何事なのかを訪ねた。
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