第3話 ― 3

「説明をさせていただいても構いませんでしょうか」


 なんにせよ、私の仕事は目の前の利用者様への説明と、それに伴う事務手続きでございます。クワヤマ課長を責めたり、このようなタイミングに限って休憩中のハヤセさんに八つ当たりをするのはそれからでも決して遅くはございませんので。

 まだ泣き続けておられる女性はひとまず置いておくとしまして、利用者様のほうへ声をかけますと、あちらのほうも即座に首を縦に振ってくださいました。どうも女性の方と比べてかなり落ち着いておられるご様子ですね。


「先ほども申し上げました通り、こちらは冥界でございます。死後の世界として、死者の魂を管理して生まれ変わりの調整なども管轄しております」

「え、じゃあなに、俺死んじゃったの? アンナさんも?」

「ここに来られているということは、そのはずなのですが」

「あー、そっかぁ……」


 自身とその隣の女性が死んでいる、という情報をたった一言で受け入れるこの反応は、冥界の七七七号世界支所に勤めている身としてはかなり新鮮なものでございます。当課にやってこられる利用者様であれば、その大半は死んだと言われても納得をしないか、もしくはそのまま転生をするのだと思い込んで死んだという認識を持とうともされません。

 そのどちらでもない反応は新鮮であると同時に、この利用者様がこれまで活動しておられた世界において死が身近な所にあるものだということを察せざるを得ませんでした。利用者様の表情は困惑等とは異なり、明らかに自身の死因に心当たりがおありの様子でした。


「つきましては、利用者様には幾つかお伝えしたいことがございまして」

「待ちなさいよね」


 そのまま説明を続けようとしたところへ割り込んだのは、いつの間に泣き止んだのかわからない付き添いの女性の方。相変わらず利用者様の胴に腕を回してしがみついたままですが、その視線はハッキリと私を捉えております。


「あたしたちが死んだって? ここは死後の世界? だったらなによ、余計な話なんか聞く気はないわ。どうせ今頃私たちの仲間が私たちに蘇生魔法を唱えているところなんだからね。こんなところすぐに出ていってやるわ!」


 かなり棘のある口調でそう言いながら私を睨みつけるその女性ですが、格好が格好なので今一つ威圧感や気迫に欠ける、というのが正直な所でございますね。そしてもう一つ、その話を聞くとお伝えせねばならない案件が増えてしまいました。


「蘇生魔法の件ですが、現在冥界の権限によって差し止めさせていただいております。申し訳ございませんが、ご理解のほどおねがいいたします」

「嘘でしょ⁉ なんで⁉」

「その件でご説明させていただきたいことがございますので、どうかお話を聞いていただけますでしょうか」


 利用者様にお伝えはしておりませんが、この「蘇生魔術の差し止め」というのは冥界側でも多大な労力を要するものでございます。特に当課が管轄している世界は基本的にそのような魔術が存在しない場所ですので、その苦労はかなりのもの。

 現在も蘇生魔術の干渉をブロックし続けるために一般転生課が尽力してくださっているはずで、あまり長引かせるわけにもまいりませんでした。普段なら頷くなり返事を聞かせていただくなり、何かしらの反応を待つのが決まりですが今回ばかりは相手の表情が真面目な物に代わったのをそのまま了承と取らせていただきましょう。


「現在利用者様には、冥界における重罪を犯したとして特別措置の指示が出ております。この後のご返答にもよりますが、次の生まれ変わりに関して厳罰が下される可能性もございます」

「重罪? 俺が?」

「タイチが何したっていうのよ⁉」


 お二人の反応は見事に両極端でございました。きょとんと首を傾げられる男性の利用者様に対して、付き添いの女性の方はまるで我が事のように憤慨しておられます。

 さすがに私とて、そこまで人の感情の機微に疎いわけではございません。こちらの付き添いの方がこれほどお怒りになられる理由も、お二人の関係性も気づいてはおります。


 それゆえに、少々やりづらさといいますか、伝えるのを躊躇いたくもなるといいますか。

 とはいえ私のモットーは仕事に対して真面目に徹底的に取り組むこと。それが仕事である以上は正面からお伝えいたしましょう。


「異世界への無許可渡航、および渡航先での活動年数五年。分かりやすく現世基準で言い換えるならば密入国です。渡航手段に本人の意思が介在していなかったとしても、その後五年の生活は本人の自由意思が介在する余地があったと推察され、罪状に問われることとなりますね」


 そこまでの説明は、利用者である男性のほうへ。

 そしてその次は、その隣でまだしがみついておられる女性のほうへ向けた言葉でございます。


「こちらの利用者様を七七七号世界より拉致されたとして、貴女にも厳罰が下る可能性がございます」


 むしろ主犯は付き添われている女性の方である、と考えますと罪の重さは彼女の方が上となるでしょう。そう説明しますと、お二人の表情が一気に変わりました。

 

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こちら冥界・異世界転生課 水城たんぽぽ @mizusirotanpopo

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