第6話 女の子として
「お前は男の性欲が強すぎる!」
というお叱りを受けて、ボクは女性らしさを勉強することになりました。
我が子を谷に突き落とすということで、現場で学べと制服を着て学校に通うことになりました。
もちろん女子の制服。
私の名前は白木あゆみ14歳。中学二年生。
この春、女の子デビューです☆
「寝坊した!」
ぱっぱと着替えをして、食パンをかっさらい、玄関を飛び出した。
曲がり角で運命の出会いでもあるかもしれない、そんな気持ちで曲がり角をダッシュで曲がる。
ドンッ!
誰かと衝突して尻もちをついてしまった。
キター!
運命の出会いか!?
恐る恐る相手を見ると、目の前に尻餅をついた男がいた。
イケメンだ。
なんだ男か。
がっかりだ。
「ごめんなさい。大丈夫ですか?」
イケメン君が謝ってきた。
しかしこいつ、人の目を見ないで謝ってやがる。
随分と下を見てやがる。
ん? ガン見してるぞ?
何見てるんだ……
「あっ」
大股開きで尻餅をついたもんで、我が純白の三角形が丸見えであった。
これはいけない。慌てて足を閉じて、スカートの裾を手で押さえる。
ちくしょう! なんでこんな野郎に大サービスしてやらなきゃいけないんだ。
ボクですらこんなラッキーイベントに遭遇したことなんかないぞ!
文句でも言ってやろうか……と考えたが、今日は女の子デビュー初日。
「オホホホホ……ごめんなさい」
慌ててその場を去ることにした。
言った後に気が付いたが、オホホホホとかねーわ。失敗失敗。急いで学校に行かなければ。初日から遅刻はまずいだろう。
そう思って走りだす。
違和感が半端ない。これ、絶対スカート捲れてるよね。男の時の感覚で走ったらだめだ。
もっとおしとやかに……
小走りでいそいそと……
だめだ! こんなペースじゃだめだ! 間に合わない!!
周囲を見渡し、誰も見ていないことを確認。
よし! 走るぞ!
大股で走り出したので、スカートが捲れまくり、綺麗な太ももが露わになる。
自分で自分の太ももを見て興奮する。
やべーこれやべー。
自分の太ももばかり見ながら走っていたので、当然前方不注意で人とぶつかる。
痛たた……
ぶつかった衝撃で押し倒されてしまった。
また男だ。いい加減にしろ。
しかも、こんどのやつはどさくさにまぎれてボクの胸を触ってやがる。
モミ……
あ! こいつ今胸揉んだぞ!
ボクの胸揉んだーっ!!
こいつ……どけよ!
どかそうと思って腕に力を入れるが、全然相手は動かない。
こいつ……力強い! こんなひ弱そうなやつなのに! だめだ、びくともしない。
もしかして……この体って……力ない?
一向にどこうとしない男。
しかたないから目で訴えることにした。
鋭い目つきで睨み付ける。
「おい! どけよ!」
つい口にだしてしまった。
男は「ご褒美です」と言い残して去っていった。
本当になんなんだもう。ついてないったらありゃしない。
女性を押し倒して、胸を揉むなんて男として最低だぞ!
ボクならそんなこと絶対にしないから!
ふと頭の中にロリっ子先生のビジョンが浮かんだ。
「ソンナコトシナイシナイ……」
やっとの思いで教室にたどり着いた。
席は……空いてる。
あっちと同じでいいのかな?
ちょっと聞いてみよう。
「おはよう。あの、ここって私の席であってる?」
声をかけられた女の子は、不思議な顔をして首を傾ける。
「ここで合ってるけど、どうしたのあゆみ?」
「あ、ううん。わかんなくなっちゃって。あはは」
笑ってごまかすしかなかった。
ヤバイ。
今ってボクどういう状況?
本当のあゆみちゃんの学校生活なんて知らないぞ。
ゆきちゃん以外の友人関係も知らないし。
記憶喪失設定にでもしようか。
この辺は先生に後で相談しないと。
それまでは、誰とも口を利かないで黙っていよう。
そう思ったのもつかの間。
いきなり3人の男子に囲まれた。
「おはよう、あゆみちゃん」
「オッス! あゆみ!」
「あゆみちゃん、今日も可愛いね」
ニコニコ笑顔でボクの席を取り囲む男子たち。
近い近い。
もっと離れてくれ。
「お、おはようございます」
緊張して敬語になってしまった。ヤバイ、顔が引きつってる。
右側にいた男子が、いきなりボクの髪を触りだす。
「いやぁ……いつ見ても綺麗な髪だね」
嫌らしい手つきで髪を撫でまわす。
うひゃぁ! 勘弁して!
「どれどれ~?」
左側の男子まで髪を触りだした。
どさくさにまぎれて男子の足が、ボクの左足にくっつく。
こいつ……
残りの一人がボクの真後ろに立って、ボクの髪の毛を触りだす。
「んぁぁ……いい匂い……」
嗅ぐな! 変態!
辞めろ! 離れろ!
しかし、ボクの頭の中でまだ「あゆみちゃん」の設定が出来ていない。
どう対処すればあゆみちゃんらしい?
どういう口調があゆみちゃんらしい?
あゆみちゃんならどうするの?
全然わからない。
だから何も言えなかった。
ただただ我慢。
早く終わってくれと願いながら、ひたすら我慢するしかなかった。
耐えるあゆみを見て、何を勘違いしたのか後ろの男子がボクの両肩を掴んで撫ではじめた。
「今日のあゆみちゃんの下着の色は何色かなぁ~?」
気持ち悪い。
本当に勘弁してほしい。
何だこいつらは!
こんな会話を男子は女子にしているのか?
こいつらが特別変なのか?
それとも、元のあゆみちゃんがそういう対象にされていたのか?
左の男子はボクの足を触ってきた。
完全にセクハラだぞ!
でも……どう言えばいい?
どうすれば……
気持ち悪い……
男子たちがあちこち触りはじめてきた。
やめて……触らないで……
やめて……
やめて……
助けて!
「あゆみから離れろ!」
一人の少女が現れた。
その少女は、ボクから男子たちを引きはがしてくれた。
「ちっ! ゆきと仲直りしてたのか」
男たちは未練たらしく去っていく。
「あゆみに手を出すなっていつもいってるでしょ! とっととあっち行け! 二度とあゆみに近づくな!」
ボクはその声の主を見上げ、その顔に釘付けになってしまった。
ボクは知っている。
この子の顔を知っている。
ずっと見続けていた夢の中で。
ずっと恋焦がれていた二人の少女の内の一人。
ずっと君の声が聴きたかったんだ。
「ゆきちゃん……」
やっと会えた。
はじめまして。
君に出会う前から、君に会いたかったんだ。
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