報酬
11時30分 千葉県富里市
新宿駅から電車に揺られておよそ一時間半。二回電車を乗り換えてたどり着き、僕はある邸宅の前に立っていた。依頼された際に指定された住所を訪ねると、【佐藤】とは異なる表札のかかった昔ながらの和風建築が待ち構えていて、迫力に少し気圧されてしまっている。
「ごめんください」
インターホンを押して依頼人を待つ。
しばらくして『どうぞ、お入りください』と声がかかったので、施錠されていない門を開け、少し進んで玄関に入る。玄関では依頼人の千恵氏が出迎えてくれて、20m以上ある廊下の先にある客間に案内してくれた。
「時間が無いのです。お茶も出せずすみません」
客間は掛け軸に違い棚、障子に畳と"和"そのもので、上座の座布団に僕は腰を下ろした。千恵氏は何故か焦っているようで、報告を急かされているように感じた。
「では依頼の報告を」
一言前置きをして、宝石を差し出す。
「依頼通り、【雪の雫】を持ってまいりました」
「成功したのね。よかった」
「依頼は完了したということでよろしいでしょうか?」
「え、えぇ。報酬はこちらに」
大事そうに【雪の雫】を諸手で包みながら、彼女は後ろの箪笥から封筒を取り出し身体の向きをこちらに戻した。僕は封筒を受け取ると同時に声をかける。
「一つ質問です」
「何でしょうか?」
唐突な質問に驚いたのか、彼女は少し上ずった声で問い直す。
「貴方はどうして【雪の雫】を求めたのですか?」
依頼は終わった。僕の仕事はここまでだし、証拠隠滅などしなければいけないことは数多い。本来ならば何も聞かずに報酬を得て帰るのみ。でも、僕はどうしても気になってしまう。探偵としての救いがたい
「教えては頂けないでしょうか?」
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