397:テジーの日記
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今日、ニベルー様が文字というものを教えてくれたので、早速、日記というものをつける。
まずは私の事から。
私の名前は、テジー・パラ・ケルースス。
ニベルー様は、私の事をテジーと呼ぶ。
私はまだ、この世に生まれて三日だけど、ニベルー様はもう七十年以上、この世界で生きていると言っていた。
ニベルー様は、とても立派な錬金術師で、沢山の事を知っている。
そして、私にいろいろな事を教えてくれる。
私は、沢山沢山勉強して、ニベルー様のような立派な錬金術師になりたい。
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これは……、誰の日記だ?
俺は、机の裏にあった手帳の1ページ目を読んで、首を傾げた。
今読んだ内容と、表紙にあるT.P.Cという文字を見る限りでは、テジー・パラ・ケルーススという人物が、この日記を書いたのだろうか??
「テジーってのは確か、ニベルーの妻の名前だぞ?」
「ひっ!?」
突然背後で声がして、俺は驚いて立ち上がろうとして……
ゴッチィーーーーン!!
「くぅあぁぁ~!?!?」
机の裏に思い切り頭をぶつけてしまい、痛みに耐えながらうずくまり、悶絶した。
涙目で背後を見ると、そこにいるのは、ヤンキー座りをしながら、こちらに向かってニカっと笑うカービィだ。
カービィも、持ち前の体の小ささを活かして、机の下に潜り込んできたようだが……
こんのぉ~、カービィの馬鹿野郎っ!!!
いきなり耳元で声を出すんじゃねぇよこの野郎っ!!!!
「カービィさん!? どうかしましたかっ!??」
マシコットが慌てて机の下を覗く。
「いんや~、大丈夫だぞ~。気にせずそっちを探してくれ~」
ヘラヘラと笑いながらカービィはそう言った。
ヘラヘラすんじゃねぇよカービィこの野郎っ!
こっちは頭が割れそうに痛いんだぞ馬鹿野郎っ!!
「おうモッモ、続きを読もうぜ」
サッと真面目な顔になったカービィに促されて、俺はギリギリと歯を食いしばり、かなり憤慨しつつも、手帳のページをめくっていった。
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今日は、ニベルー様に料理を習った。
少し難しかったけど、私の作った料理を、ニベルー様は美味しいと言った。
もっと、いろんな料理を作りたい、作れるようになりたいと思った。
ちなみに、今日作った料理は、卵を焼いたもので、目玉焼きと言うらしい。
何故そのような名前なのかは分からないけれど。
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今日は、雨が降っていた。
ニベルー様は、一日中、研究をされていた。
私はその隣で、一日中、本を読んでいた。
研究をするニベルー様の姿を見るのが、私は好きだ。
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今日は、ニベルー様と森へ出かけた。
弓と矢を使って、狩をした。
小さな野鼠を数匹狩って、持って帰った。
半分はニベルー様が食べる用、残りの半分はテンが食べる用だ。
テンは、ニベルー様が育てている野鼠で、ちょっと変わっている。
森にいる野鼠より大きいし、ずっと籠の中でぼんやりとしていて、食べる時以外はほとんど動かない。
でも、ニベルー様は、テンを大切にしている。
だから私も、テンを大切にしようと思う。
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今日は、初めて、ニベルー様以外の人を見た。
ヴァッカという名前の、ニベルー様よりも若い男性だ。
森の中で倒れていたのを、ニベルー様が助けて、小屋へ運んできた。
ニベルー様は少し、手足を怪我していた。
ヴァッカの背中には大きな傷があって、顔色がとても悪くて、ニベルー様が一生懸命に看病していた。
ヴァッカは、背中に大きな黒い翼が生えていて、頭には角がある。
もしかしたら彼は、人ではないのかも知れない。
けれど、ニベルー様は私にこう言った。
誰でも過ちを犯す、けれど、悔い改めれば救われる、と。
ニベルー様の言葉の意味はよく分からないけれど、明日からは、私もヴァッカの看病をしよう。
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ニベルー様がヴァッカを連れて来てから、七日経った。
ヴァッカは、記憶喪失、という病気だそうで、ここへ来る前の記憶が全くないのだという。
ヴァッカは力持ちで、森の木々を切り倒し、薪を作るのがとても上手だ。
私もニベルー様も、力仕事は少し苦手なので、とても助かっている。
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ニベルー様は、毎日研究に忙しい。
だから私は最近、毎日ヴァッカに勉強を教えてもらっている。
世界の事、生物の事、天気の事、ヴァッカは何でも知っている。
けれどヴァッカは、自分がどうしてここにいるのか、ここに来る前は何処にいたのか、自分が何者なのかわからないと言って、目から水を流した。
それは涙というもので、とてもとても悲しい時に、目から流れ出るものらしい。
私はヴァッカに、記憶が戻るといいねと言った。
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今日は、とても大変だった。
ニベルー様とヴァッカが、喧嘩をした。
大きな声で怒鳴り合って、ヴァッカはニベルー様に暴力を振るった。
ニベルー様は具合が悪くなって、今もベッドで眠っている。
ヴァッカはとても反省していて、森へ薬草を摘みに行った。
ニベルー様とヴァッカは、どうして喧嘩なんてしたんだろう?
私には、二人が言い合っている言葉の意味が、よく分からなかった。
ヴァッカが、ニベルー様に何かを止めるようにと言っていた。
でも、ニベルー様は止めないって言っていた。
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ニベルー様とヴァッカが仲直りをした。
二人に笑顔が戻って、私はとてもホッとした。
これからも三人で、仲良く幸せに暮らしていきたいと思う。
ヴァッカはニベルー様に、仲直りの印にと、生きている野鼠を渡していた。
テンの入っている籠の隣に、もう一つ籠を置いて、その中で育てる事になった。
ニベルー様はその野鼠に、イレブンという名前を与えた。
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今日、ニベルー様に言われた。
私は、とても重い病気らしい。
だから、しばらくの間眠って、病気を治す必要があるって。
ニベルー様は私にこう言った。
私は世界で一番美しい、私の事を世界で一番愛している、私が一番大切だと。
とても、とても嬉しかった。
明日、私は眠りにつく。
テンとイレブンの世話は、ヴァッカがすると約束してくれた。
ニベルー様のご飯が作れないのは残念だけど、病気がニベルー様やヴァッカにうつると大変だから、仕方がない。
日記も、しばらくは書けないな。
けど、私は必ず病気を治す。
ちゃんと治して、またニベルー様とヴァッカと三人で、笑って暮らせるように。
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青い手帳に書かれた日記は、そのページで終わっていて、次のページからは真っ白だ。
ページを飛ばしながら読んだ上に、日付も何も無い日記なので、これがいったいいつの事を書いたものなのかは全く分からない。
けれど、ニベルーと共にここで暮らしていた者の日記だという事だけは分かった。
テジーと、ヴァッカと、野鼠のテンとイレブン。
……しかし、テンとイレブンって、なんだか番号みたいな名前だな。
いくら野鼠とはいえ、ニベルーってば、ペットに対するネーミングセンス最悪だぞおい。
俺は、残りのページをパラパラとめくりながら、ボンヤリとそんな事を考えていた。
そして、最後のページに辿り着いた、その時だった。
「え? な、に……、これ??」
「……やっべぇな」
ページを開くと同時に、俺とカービィは額から冷や汗を流し、絶句した。
俺の体は氷に閉ざされたように硬直し、手帳を持つ手だけが小刻みに震えている。
そこにあるのは、真っ黒な闇だ。
ページの全てを埋め尽くすほどの、書き殴られた、黒い文字。
それはまるで、呪いの言葉のように、おどろおどろしい雰囲気を漂わせていた。
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ニベルー様の嘘つき ニベルー様の嘘つき ニベルー様の嘘つき ニベルー様の嘘つき ニベルー様の嘘つき ニベルー様の嘘つき ニベルー様の嘘つき ニベルー様の嘘つき ニベルー様の嘘つき ニベルー様の嘘つき ニベルー様の嘘つき ニベルー様の嘘つき ニベルー様の嘘つき ニベルー様の嘘つき ニベルー様の嘘つき ニベルー様の嘘つき ニベルー様の嘘つき ニベルー様の嘘つき ニベルー様の嘘つき ニベルー様の嘘つき ニベルー様の嘘つき ニベルー様の嘘つき ニベルー様の嘘つき
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