395:ボン・バストスの乱

もうっ!?

一体全体、この島はどうなってるんだあっ!??


森に入ったら、奇妙な馬面人間がいっぱいいたり……

前世の世界では神話に登場するほどカッコいい魔物のはずのケンタウロスが、やれ好色だのなんだので、更にはその族長は鞭がお好きな変態だったし……

極め付け、何の話なのかまだよくわかんないけど、カービィの言うホムンクルスとかいう生き物は、お、おと、男の……


ぎゃあぁあぁぁ~!!

考えたくもないっ!!!


「ねぇっ!? 結局そのホムンクルスってのは何なのさっ!?? いったい、この島で何が起きてるのっ!?!?」


俺は、ゲロを吐きそうなのを必死で我慢して、そう叫んだ。


アーレイク・ピタラスの弟子であるニベルーは、ここで、作っちゃいけないホムンクルスを錬金術で作っていた……、かも知れないのは分かったよ。

けど、カービィ達が焦っている理由が、まだ俺には分からない。

フラスコの国に向かったノリリア達が危ないって……、どういう事なのっ!?


「ホムンクルスの製造が禁止されたのは、ある事件がキッカケだった。ホムンクルスを、完全なる生命体として作り上げるには、魂を結晶化させた物質、イリアステルが必要となる。大昔から、ホムンクルスの肉体を作るだけなら、数多くの錬金術師が成功していた。けど、魂のないホムンクルスは、製造されたガラス瓶の外の世界では生きられなかったんだ。そして……、それに気付いたのが、さっきおいらが話した史上最悪の錬金術師、ボン・バストスだった。ボン・バストスは当時、国に認められた偉大な錬金術師だった。だけど、その思想の異常さは、本人以外は誰も知らなかったんだ。元々資産家の生まれだった事もあって、ボン・バストスは金に物を言わせて、刑務所の囚人を買収し、魂の結晶であるイリアステルの製造に成功した。そして、その囚人達の魂を、予め自分の血と精液で作っておいたホムンクルスの肉体に植え付ける事で、完全なる造出生命体を作り上げたのさ」


うっ……、げぇ~!?!?

そいつ、マジ頭いかれてるんじゃないっ!?!??

自分の血と精液って……、まともな奴が考える事じゃないよそれ……


「そ……、その、ホムンクルス達は……、どうなったの?」


「ボン・バストスが、ホムンクルスを作った目的……。それは、世界征服だった!」


は!? はぁあぁ~っ!?!?

そいつ、マジ馬鹿なんじゃないっ!?!??


世界征服て……、何その幼稚な目的?

本気でそんな事をしようとして、気持ちの悪い研究を、ずっとずぅ~っと、続けてたわけ??

……全くもって理解不能だわ。


「ボン・バストスは、自ら作り上げた数百体のホムンクルスを従えて、当時の王都を襲撃した。ホムンクルスは、その命に限りがねぇ。怪我を負い、肉体が損壊し、普通なら死んでしまうような致命傷でも、奴らは平然と戦い続ける。何故なら、奴らの魂の持ち主はどこか別の場所で生きていて、その本体を倒さない限りは不死に近いからだ。勿論、体をバラバラにすれば動きは封じられるが……、文献を読んだ限りでは、そんな一筋縄じゃいかなかったらしい。当時の国営軍は壊滅寸前にまで追いやられたそうだ。ホムンクルスは不死な上に痛みを感じねぇ。たとえ手足をもがれ、胴体を切り裂かれても、顔だけになって襲いかかってきたと記録には残されている」


ひょっ!? ひょえぇえぇぇ~っ!??

もうなんか、想像するだけでも身震いが止まらないっ!!!!


何なのっ!? 何なのホムンクルス!??

ゾンビじゃんっ!???

ホラーじゃんんんっ!?!??


「ちなみに、歴史的にも凄惨な戦いとなったその事件は、ボン・バストスの乱という名で、今なお語り継がれているでござるよ」


はへ? 何それ、オチですか??

ボン・バストスの乱て……

そんだけ酷い戦いだったにも関わらず、結構簡単な言葉でまとめたもんだな。


「それで……、ここからはまだ、おいらの私見に過ぎねぇんだが……。森の東側で、ケンタウロスや人間たち、カサチョを襲った奴らは、間違いなくフラスコの国のハイエルフ達だ。そして……、奴らはホムンクルスだ」


ぬぁっ!? なぁ~にぃいぃぃ~!??


「そっ!? えぇっ!?? ……え、あのハイエルフが、ホムンクルスなのぉおっ!???」


俺は、目玉が飛び出しそうなほどに驚く。


「カサチョ、おまいを襲ってきたのは小さい野鼠の方だったんだよな?」


「そうでござる」


「うん……。という事は、その野鼠達は、おそらく魂を抜かれているな」


はんっ!? そうなのんっ!??


「ど、どどど、どうしてそう……、なるの?」


「完全なるホムンクルスを完成させる為には、魂の持ち主である本体を生かしておく必要があるんだ。だけど、魂を抜かれた生き物は勿論、それまで通りとはいかねぇ。意思、理性、知性、品性、それら全てが体からスッポリなくなって、残るのは生きる為に一番必要な欲求だけ……。つまり、食欲だけが残るんだ。意思も理性もない、食欲だけがある生き物は、眼に映るもの全てを食べ物と認識する。元々が野生で、雑食だと考えられる野鼠なんかは特に、動く者なら何でも食べ物だって思っちまって、誰彼構わず襲うだろうな。つまり、あのフラスコの国の住人だとかいうハイエルフは、実はホムンクルスで、腹を満たして大人しくなってる魂が抜かれた野鼠達を、何らかの方法で操って、従魔のフリをさせていただけだろう」


ま……、マジかぁ……

じゃあつまり、ノリリア達は……


「みんなは、騙されて……? 全ては、ホムンクルス達の、罠だった……、てこと??」


「そういう事だな」


ま……、マジかぁ……

それって……、めちゃくちゃヤバくない?


「でも……、でもさ、理由がなくない? そんな……、どうしてホムンクルスが、ノリリア達を……??」


俺はカービィに問い掛ける。

仮に本当に、カービィの予想が正しくて、あのハイエルフ達がホムンクルスだったとして……

そもそも、ノリリア達を騙して国へ連れて行く意味がわからない。

仮にもノリリア達は、魔法王国フーガで最強のギルド、白薔薇の騎士団なのである。

それを知ってか知らずか、わざわざどうして……?


「ボン・バストスは、襲撃の後に捕縛され、獄中で自害したのでござるが……。最後の晩に、牢の看守に妙な事を言い残したのでござる。『悪魔の囁きが不可能を可能にした』と」


カサチョの言葉に、俺の中の何かが、ザワザワと大きく音を立てた。


悪魔の囁き……?

それって、まさか……!?


「モッモ、もう分かったろ? ボン・バストスは、完全なるホムンクルスを完成させる為に、悪魔の力を借りたんだ。だから、それまで不可能とされていた魂の結晶化を可能にし、イリアステルの製造に成功した。裏で糸を引いていたのはおそらく悪魔だ。そして……、この目の前の装置と、イリアステルと思われる結晶の残存……。ニベルーが錬金術師であった事と、ここに残されている文献や、ホムンクルスの製造方法が書かれたこの羊皮紙を見る限り、おそらくニベルーも、悪魔の力を借りて、ここでホムンクルスを作ったに違いねぇ。その悪魔が何者なのかは、まだおいらにもわからねぇけど……。考えられるとすれば、一つだろう??」


カービィの言葉に俺は、ゴクリと生唾を飲む。


アーレイク・ピタラスの弟子であるニベルーは、この島で、悪魔の残党に出会って、そして……


「ニベルーは、悪魔と手を組んで、ホムンクルスを作ったんだ」

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