388:ミッション1
「カービィさん!? カービィさん、しっかり!!?」
地面に倒れて白目を向いたままのカービィに、マシコットが慌てて駆け寄る。
「けつ……、けつが……、割れ、た……」
顎を不自然にカクカク動かしながら、カービィはなんとかそう言った。
「むむ!?
全く悪びれる様子なく、豪快に笑うカサチョ。
やっべぇ~、こいつマジで頭おかしいんじゃ?
あんな事しておいて、その態度に反省のはの字もないとは……
出来るだけ関わらないようにしないと。
「
カサチョは手に持っているカービィの杖で、空中高くに吊り上げられたままのあの白い騎士団のローブを手元に引き寄せた。
どうやらあれはカサチョの物だったらしい。
ローブの中には何か他の衣服が包まれていたらしく、瀕死のカービィの事など御構い無しに、カサチョはせっせと着替え始めた。
「マシコット殿、早くグレコとカナリー殿を救出せねばっ!」
逸るギンロ。
……あんたもなかなかに薄情だな。
先に目の前のカービィの心配しなさいよ。
まぁ確かに、俺もどっちかと言うと、グレコ達の方が心配だけどもさ。
「大丈夫だよギンロさん。カナリーは杖を持っているし、今回のプロジェクトでは通信班に割り振られているけれど、それなりの実戦経験はあるんだ。いざって時は、自分の身は自分で守れるはずさ」
「しかしっ! あの盛りのついた雄共が相手では、女子二人にはあまりに危険!!」
ギンロの言葉とその慌てぶりに、俺は事の重大さを改めて認識する。
か弱い女の子二人に、あのムッキムキなケンタウロスが沢山群がって……
ひぃいぃぃ~!?
グレコの純潔があぁあぁぁ~!??
頭を抱え、パニックになる俺。
するとその後ろで、呑気に着替えを済ませたらしいカサチョが言った。
「あの天幕には裏口がある故、そこから中に入れば良いでござるよ」
さっきから何なのっ!? そのござるってのは!??
……てっ!???
おぉおおぉぉ~!!!!!
振り向いた先に立つ、カサチョの服装に俺は驚く。
頭に竹製の傘帽子を被り、騎士団の白いローブを羽織った下はなんと和服だ。
青い体毛によく映える、白を基調とした袴姿なのである。
しかも袴の裾には何故か、《一生化け猫》という渋い刺繍まで入っているではないか。
……一つ疑問に思ったのは、何故だかその刺繍の文字が、この世界にはないはずの、前世の世界の文字、漢字である事だ。
何故に袴?
何故に漢字??
化け猫とはなんぞ???
しかしながら、今はそんな事を気にしている場合では断じてないっ!
グレコとカナリーがケンタウロス達に酷い事される前に、なんとか助け出さなくちゃっ!!
もしかしたらもう、手遅れかも知れないけれど……、それでも助け出さなくちゃあぁっ!!!
「裏口? カサチョ、どうしてそんな事を知ってるんだい??」
マシコットが尋ねる。
「いやぁ~、ははは。三日ほど、奴らに見つからぬ様にと森に身を隠してござったのだが、いかんせん腹が空いてな。危険を承知であの天幕に近付いたところ、偶然入り口を発見したのでござる。ちょうど
ふむ……、喋り方が独特だから理解するのにちょっぴり時間がかかるけど、とにかく……
「裏口があるならそこから中に入ろう! グレコとカナリーさんを助けないとっ!!」
小さな拳をギュッと握りしめて、俺はそう言った。
【ミッション1:囚われのグレコとカナリーを救出せよ!!!】
落下の衝撃により、お尻が回復しきらないカービィをその場に残し、俺達はケンタウロスの族長タインヘンのテントへと向かう。
表の入り口には、先程俺たちをひっ捕らえた二頭のケンタウロス、ゲイロンとレズハンが変わらず見張りをしているが、カサチョが言う裏口はガラ空きである。
「中は薄暗く視界が悪い。敵に騒がれ外から加勢されればこちらの分が悪くなる故、ひっそりと忍び込み、敵を欺き、人質を救うでござるよ」
カサチョの言葉に、俺達は力強く頷いた。
すると、ギンロは腰に装備していた二本の魔法剣を迷う事なく抜き出して構えているし、杖と魔導書を手にしたマシコットは殺気立っているのか顔の炎が増している。
……ねぇねぇ君達、ひっそりの意味分かってる?
そんなヤル気満々じゃあ、すぐにバレちまいやすよ??
そう思った俺は、二人にこう言った。
「僕が最初に中に入る。こっそり様子を見てくるから、みんなはここで待っていて」
「なっ!? 正気かモッモ!??」
「それは危険すぎますよモッモさん!?」
ギンロとマシコットは、目を見開いて驚いた。
しかしながら、このミッションをクリアする為には、この二人はかえって足手まといだ。
こっそり、ひっそりなんて事は、どう考えたってギンロとマシコットには無理なんだもの。
すぐに戦いたがる脳筋と、常に燃えている顔をお持ちのお熱いボーイだよ?
無理無理、すぐに見つかっちゃう。
「大丈夫。僕にはこの盾と、自由の剣があるから!」
そう言って俺は、ピグモルの長老からもらった木の棒と、港町ジャネスコの防具屋で購入した盾を持ち出した。
盾は、エルフの作った特注品 (らしい) で、特殊効果は無いけれど、敵からの攻撃を受け流す事は可能である。
そして何を隠そう、この自由の剣という大それた名前がついた木の棒は、正式名称が万呪の枝という、世にも恐ろしい呪いのアイテムなのだ。
「これでタインヘンや他のケンタウロスに呪いをかけて、その隙に僕が二人を助け出すよっ!」
力強くそう言った俺の隣で、カサチョが……
「しかし貴殿よ……、両の足が震えてござるぞ?」
ガクガクブルブルと、武者震いが止まらない俺の両足を見て、半笑いでそう言った。
「うぅっ!? うるさいなぁあっ!?? こ、怖いに決まってるだろうっ!?!?」
指摘されて恥ずかしいやら、やっぱり一人は心細いやらで、俺の足の震えは全身に広がっていく。
けど、ここで引き下がるわけにはいかないっ!
俺がやらないと……、俺が二人を助けるんだっ!!
「……うむ、承知した。しかしモッモよ、無理はするでないぞ。身の危険を感ずれば、すぐさま我を呼べ」
うん! ありがとうギンロ!!
すぐ呼ぶからすぐ来てねっ!!!
「分かりました。では……、カサチョもモッモさんと一緒に中に入ってください」
「御意!」
「えぇっ!? こいつが一緒なのっ!??」
マシコットの言葉に、俺は思わず本音が飛び出す。
仲間を助ける為とは言え、こんなクレイジーふんどし野郎と二人きりで!?
逆にリスク上がるんですけどぉっ!??
「案ずるな。
シャキーン! という笑顔で、カサチョはそう言った。
逃走のプロて……、逃げる気満々やないかいっ!?
ピンチの時は助けてよっ!??
あんた、仮にも白薔薇の騎士団なんでしょおっ!???
一抹の不安を残したまま、俺はテントの裏口をそっと開いた。
さぁ! ミッションスタートだっ!!
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