327:土の精霊ノーム

白い肌にピンク色のほっぺ。

パッチリお目々に、小さな鼻と小さな口。

薄ピンク色のワンピースと、同色のとんがり帽子を身に着けて、茶色い革靴を履いている。

一本の三つ編みにまとめた栗色の髪の毛を、右肩から前へと垂らしていて……

チルチルと名乗ったその少女は、ピグモルの俺に負けずとも劣らない可愛さを兼ね備えていた。


「土の、精霊……、土の精霊っ!?」


何それっ!? 初めましてじゃないか!??

こんにちわっ!!!!


『はい、土の精霊ノームです。なかなか呼んでくださらないので、私なんて必要ないのかもと思っていたのですが……。モッモ様の心の叫びを聞いて、居ても立っても居られなくなって、勝手に来てしまいました!』


可愛らしくも真剣な表情で、チルチルはそう言った。


「そん……、はっ! 君、もしかして、ここ掘れたりする!?」


駄目元で地面を指差し尋ねる俺。


こんな硬い岩の地面、俺がいくら血だらけになって引っ掻いてもビクともしない。

土の精霊だと言うのなら、何とか出来るんじゃないかっ!?

ちょっと……、可愛すぎる反面、かなりひ弱そうに見えるけど……

でも!! 精霊なんだから何とか出来るでしょっ!??


『はい! 勿論ですっ!! 掘らせて頂きますっ!!!』


そう言ってチルチルは、何処からかともなく、小さな薄ピンク色の、キラキラと輝くガラスのスコップを取り出した。


……いや、スコップてっ!?

スコップじゃ掘れないだろうよっ!??

とんでもなく輝いてはいるけども、お砂場遊びの玩具にしか見えませんよぉおっ!?!?


だがしかし、チルチルはやる気満々だ。

黒い岩の地面を、食い入るようにジッと見つめて……


『あ……、あれでしょうか? 何か、とても禍々しい物が埋まってます。あれを取り出せばよろしいのですねっ!?』


あれと言われても……、俺には見えませぬ。

でも、ここに埋まっていて、禍々しいのなら、それがハンニの心臓に違いない!


「そっ! それをお願いしますっ!!」


俺の言葉に、チルチルはコクンと頷いて……


『はいっ!』


両手で握りしめたスコップを、頭上高く、思いっきり振り上げた。


うっわっ!?

そんなに勢いよくやったら、岩にぶつかった反動で腕痛めないっ!??

てか、スコップが砕けないっ!???


あわわわわっ! と心配する俺を他所に、チルチルのスコップはすんなりと地面に刺さって……


ザクッ……、ブワァアァッ!!!


「はぁあっ!?」


『よしっ!』


小さくか弱そうなチルチルは、俺が必死に引っ掻いても傷すら付かなかった黒い岩の地面を、まるでプリンのように、いとも簡単にすくい上げた。

それも、たったの一回で、馬鹿みたいに大量に……


バラバラバラバラ


宙に飛んだ大量の黒い岩の欠片が、大きな音を立てながら、地面のあちこちに落ちる。

その音で俺の行動に気づいたハンニが、カービィに対する攻撃をやめて、こちらを振り返った。


「あぁんっ!? 何してんだてめぇっ!??」


ひっ!? やべぇえっ!??


捕縛シュレープ


ハンニが視線をずらした隙に、カービィが仕掛ける。

瞬時に呪文を唱えて、赤い光を帯びた縄を、ハンニの体に巻き付けたのだ。

すると、縛られたそばから、ハンニの体は赤い炎に包まれた。


「ぐわぁあっ!? 熱いぃいっ!!?」


身体中の肉が焼け、煙に包まれながら、叫ぶハンニ。


「戦いの最中に余所見してんじゃねぇぞっ!」


わざわざハンニを煽るカービィ。


すげぇっ! 何だあの縄!?

なんちゅう恐ろしい魔法……、って、あれはカービィのムチじゃないかぁっ!??


そう、ハンニの体に巻き付いているのは、魔法で作り出した特殊な縄かと思いきや、カービィがいつも腰に装備しているあのムチだった。

普段は全く何に使うのかわからない、役に立たなさそうなそのムチで、ハンニの体をぐるぐる巻きにし、動かないようにと力一杯に引っ張るカービィ。

赤い光を帯びているところを見ると、魔力を使ってはいるのだろうが……

その仕組みは、俺にはよくわからん!


『モッモ様! これを!!』


チルチルに呼ばれて視線を戻すと、チルチルはいつの間にか自分で掘った穴の中へ降りて、その手に何やら気持ち悪~いものを持っている。

それは、ピクピクと痙攣しながら、ドクドクと脈を打っている……、心臓。

それも、俺の知っているものとは程遠い、真っ黒な禍々しい悪魔の心臓だ。


「ぎゃっ!? よく触れるねっ!??」


あまりの気持ち悪さに、俺は一歩引く。


めっちゃ可愛いのに、そんなグロテスクな物を平気で持てるなんて……

ギャップがあり過ぎるよチルチル!!!


『早く! マグマへと投げ入れてくださいっ!!』


俺よりも数倍、現状を把握しているらしいチルチルが必死に叫ぶ。


「はっ! そうだった!! うぅ……、気持ち悪いけど……、くそぉ……。うっ、うわぁあぁ~!!!」


目を瞑り、声を上げながら、勢いに任せて黒い心臓を掴みにかかる俺。

すると、思っていたよりも俺の握力が強かったのか、心臓が脆かったのかはわからないが……

黒い心臓から、これまた黒い血液が、ブシュゥッ! と勢いよく噴き出した。


「ぎゃあぁっ!?」


「ぎぃやぁあぁぁっ!??」


俺とハンニは同時に叫んだ。

俺はあまりの気持ち悪さに、ハンニは心臓を握り締められた苦しさに、あらん限りの声で叫んだ。


「ぐはっ!? おえぇっ!?? ぐっ、ぐぅ~、はぁはぁ……。おのれぇ~、えぐっ……。野ネズミ風情がぁ……。覚悟しろぉおぉっ!!!」


真っ赤な額に、青筋を立てるハンニ。

カービィに縛られて体の自由は効かないが、唯一動かせる先端が鎌状の三本の尻尾を、ブワッ! とこちらへ振った。

それは真っ直ぐに、俺の首元目掛けて飛んできて……


なんっ!? 避けられないっ!!?


為す術なく、逃げる事ももはや叶わない俺は、死を覚悟してギュッと目を閉じた。


「うっ……、ううう……。 ん……、あれ?? 生きて……、ひっ!??」


一瞬、首が吹っ飛んだかと思ったが、何者かがハンニの尻尾を、俺の顔の真ん前で止めてくれていた。

しかし、ハンニの尻尾はギリギリと、未だ此方に向かってこようとしている。

それを防いでいるのは、何処からともなく現れた、ポワーンとした水色と黄色のオーラの塊だ。

いったいこれは何なんだ? と目をパチクリしていると、何やら小さな人型が二人、姿を現した。

しかも……、浮いている!?


『メリル!? グロリア!!?』


穴の中からチルチルが叫ぶ。


めり……、ぐ……、は???


よく見ると、俺の目の前に浮かんで、ハンニの尻尾を止めている二人は、色こそ違えど、チルチルとよく似た感じの服を着ている。

だが、二人は男性のようだ。

ワンピースではなく、上下が別々で、下は長ズボンを履いている。


……え? もしかして、また土の精霊ノーム!?

精霊って、そんなに沢山呼べちゃうの!??


驚く俺の方を、ゆっくりと振り返る二人。

そのお顔は……


『チルチルを危険な目に遭わすんじゃねぇよ、このクソ馬鹿鼠がぁっ!!!』


開口一番、唾をいっぱい飛ばしながら怒鳴ったのは、水色服のノームだ。

なんとそのお顔は、可愛くもなんともない、何処にでもいる小汚い無精髭の親父。


『このような輩にチルチルを使役させるとは……。時の神は何を考えおられるのか。わしゃ~、誠に遺憾じゃ』


大きく溜息をつく、黄色服のノーム。

こちらは更にご年配で、真っ白なふさふさの眉毛とお髭が、まるでサンタクロースのよう。

だがしかし、なかなかに目力が凄い……


どちらも宙に浮いたまま、さも不機嫌なご様子で、俺を睨んでいらっしゃいます。


……えっ!? 助けてくれたんだよねっ!??

敵じゃないよね君達っ!???

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