326:真の実力

「あいつらどこへ行ったぁっ!? どこへ消えたぁあっ!??」


ひぃっ!? 気付かれたっ!??


ハンニの怒声に俺はプルプルと震えながら、石碑の裏側へと隠れた。

すぐそこには、炎のたぎるマグマの泉。

暑くて怖くて、全身から汗が噴き出してくる。

一歩足を踏み外したが最後、俺の小さな体なんか、丸焼きどころか一瞬で蒸発してなくなっちゃうだろう……

そんなの嫌だぁっ!!!


「モッモ! 掘って!!」


わわわわっ!?


急に耳元でグレコの声が聞こえて、俺は危うくマグマの泉にダイブしかける。


危ないじゃないかっ!?

なんだっ!?? どこだグレコ!???


キッ! と辺りを見渡すも、グレコの姿はない。


「こっちよ! 火の向こう側!!」


またもや声がして、キョロキョロと視線を泳がせる俺。

すると、マグマの泉の向こう側で、弓を構えるグレコと砂里の姿を発見した。


あっ! なるほど、絆の耳飾りかっ!?

てっきり隣にいるのかと思ったよ。


……てか、随分遠くから構えてらっしゃるわね?

そこならハンニの鎌は届かないだろうし、さぞ安全でしょうねぇ??


「早く! 掘りなさいっ!!」


急かすグレコ。

だがしかし……

掘れと言われても、地面は岩なんですよっ!?

何か方法は……、何かないか!??


為す術なく、俺があわあわしていると……


「グハァッ!?」


何やら、とてつもなく嫌な声と、重いものが倒れるドサッという音が聞こえた。


まさか……、そんな……、まさかだよねっ!?

石碑の裏側から、そろりと顔を出して見てみると……

あぁっ!? ギンロが倒れているっ!??


ギンロは、腹部に深い切り傷を負い、そこから大量の血を流しながら、苦しそうな表情で地面に横たわっている。

ギンロの体力、もしくは集中力が途切れてしまったのかと思いきや、よく見てみると、一本だったはずのハンニの尻尾が、いつの間にか三本に増えているではないか。

あんなものを三本も振り回されちゃ、さすがのギンロも防ぎ切れなかったのだ。


「ギャハハハハハッ! 我が力の前に立ちはだかる者などこの世には皆無っ!! あの世で後悔しやがれっ!!! 」


ギンロにとどめを刺そうと、ハンニは三本の鎌の尻尾を振り上げる。


「ギンロォオォォーーー!!???」


俺は思わず、身を乗り出して叫んでいた。

だけど、俺が叫んだとて、ハンニの尻尾は止まらない。

三本の刃が、倒れたギンロの身体目掛けてとんでいき、そして……


最大級メギストス防御アミナ


カービィの声が聞こえたかと思うと、ギンロの周りに半透明の青いバリアのような物が現れて、ハンニの攻撃を弾き返した。

よく見るとそのバリアには、巨大で複雑な魔法陣がいくつも浮かび上がっている。


「……ほぉ? 面白い。古代呪文エンシェント・ソールを扱えるとは、なかなかの手練れだな、お前。いったい何者だぁ~??」


ハンニの視線の先にいるのは、倒れたままのギンロの向こう側、全身に七色の光を帯び、眩しいくらいに光を放つ魔導書と杖を手にしたカービィだ。

全身の毛は逆立ち、身につけているローブがひとりでにフワフワと宙に浮いていて、普段とは全く違う雰囲気、オーラを醸し出している。


「おいらはカービィ……。虹の魔導師カービィだっ! 仲間を傷付ける奴を、おいらは絶対許さないっ!!」


カービィが、怒っている……

いっつもヘラヘラしているカービィが、怒っているのだ。


「そうかいそうかい、きひひひひっ……。魔法対決をご所望なら、それに答えてやろうじゃないか……。暗黒火炎メラン・フローガ!!!」


ハンニは、裂けるほどに口を開いて、真っ黒な炎をカービィ目掛けて吐き出した。


危ないっ!? カービィ避けてっ!!!


しかし、カービィは一歩たりともその場から動かずに……


反射アダナクラス


静かに呪文を唱えたカービィの前には、先ほどとはまるで違う、強靭そうなピンク色の光の盾が現れた。

それはギンロを守っているバリア同様、巨大な魔法陣がいくつも表面に浮かび上がっているのだ。

そしてそれは、ハンニの真っ黒な炎を、見事に弾き返している。


「小癪なぁっ!? 戦え腰抜けめぇえっ!!! ギャハハハハハッ!!!!」


狂ったように笑いながら、黒い炎を吐き続けるハンニ。

しかし、カービィの光の盾はビクともしない。


……すっげぇカービィ、普段はあんななのに。

これが、虹の魔導師と呼ばれる者の、真の実力なのか。


「モッモ、聞こえるか?」


「わっ!?」


カービィとハンニの戦いを、呆然と見つめていた俺に対し、交戦真っ只中のカービィが、絆の耳飾りで喋りかけてきた。

余裕かよっ!?


「さっさとそこ掘って、心臓を取り出せ。ギンロ……、早く手当てしねぇと、間に合わなくなるぞ」


静かなカービィの声に、俺はギンロへと視線を向ける。

倒れたままの体はピクリとも動かず、その目はもはや閉じていた。


そんな……、ギンロ!?!?


「ハンニは炎に弱い。心臓を取り出して、後ろのマグマへと投げ入れろ。早く……、早くしろっ!」


いつもとは違うカービィの言葉、その鬼気迫る声色に、俺は更に焦る。


早くしろって言われても、こんな岩の地面じゃ掘れないよっ!!!


しかし、ギンロは腹部の傷口から、どんどんと血を流している。

このままじゃ本当にギンロが……、そんなの嫌だぁっ!!!


俺は一か八か、岩の地面に爪を立ててみる。

しかし勿論、俺の軟弱な爪では掘ることはおろか、削る事さえ出来ない。

何度も何度も繰り返し行うが……、すぐに爪が割れ始め、赤い血が滲んできた。


誰か……、グレコ!? 助けてよっ!??


しかしグレコは、マグマの泉の向こう側にいる為に、おそらくこちらの状況がいまいち掴めてないようだ。

いつでも援護射撃が出来るようにと、変わらず弓を構えている。


くそっ……、いったいどうすればいいんだ?

このままじゃギンロが……、ギンロが……

助けられるのは俺しかいないのにっ!!

くそっ、くそっ、くそぉおぉっ!!!


自分の非力さ、無力さを、これほど嘆いた事は今までにない。

悔しさと、ギンロを失ってしまうかも知れないという恐怖で、涙で視界が滲み始めた……、その時だった。


『お力を、お貸ししましょうか?』


聞き覚えのない、優しく可愛らしい声が聞こえた。

顔を上げるとそこには、俺の半分ほどの大きさしかない、とても小さな少女が立っている。


「君は……、誰?」


『私はチルチル。あなたに仕える、土の精霊です』


チルチルと名乗った少女は、ニッコリと笑った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る