324:危険信号発動!!

ヴォンヴォンヴォンヴォンヴォン


「モッモ! まだ南かっ!?」


「まだ! 南っ!!」


「けどよ! このままだと、山頂に着いちまうぞっ!?」


爆音と七色の煙を吐き出しながら、空中を行く金属箒。

片手でカービィの体にしがみつき、もう片方の手で望みの羅針盤を確認する俺。

やはり、金色の針はまだ南を指している。

ここまでずっと、南へ南へと進んで来たが……

カービィの言うように、自然と山道を登ってしまっていて、もうすぐコニーデ火山の山頂に着いてしまう。


「もしかしたら……、ハンニはまだ! 山頂にいるのかもっ!! ほら、喜勇達は、山頂で倒れてたって!!! そこにまだ、ハンニがいるのかもっ!!!!」


「なるほどなっ! でも、そんなにずっと同じところにいるか普通っ!? 何か仕掛けてくるなら、移動するだろうっ!??」


「そんな事言ったって! 僕にはわかんないよぅっ!!」


爆音と向かい風の中で、声を張り上げる俺とカービィ。

眼下には、黒い岩山の道を懸命に走るギンロの姿がある。

その背には、こちらも必死な様子でギンロの背に掴まる、グレコと砂里の姿が見えた。


このまま山頂に行って、もしハンニがいなかったら……、どうしようっ!? 俺が責められるっ!??


変な冷や汗を大量にかきながらも、俺の手の中の羅針盤の金の針は、変わらず南を指し続けている。


お願いっ! この先にハンニがいますようにっ!!

……あ、でも、本当にいたら怖いっ!!!


「モッモ、山頂が見えたぞっ! ケツの穴閉めろよぉおっ!!」


「なんでお尻……、って!? ひょえぇえぇぇ~!!?」


ヴォンヴォンヴォンヴォン、ヴォオォォーーーン!!!


金属箒はこれまでよりも更に速度を上げて、俺とカービィはコニーデ火山の山頂に到達した。


「あっついっ!? なんじゃこりゃっ!??」


「あちちちちっ!?!?」


コニーデ火山の山頂には、恐ろしい光景が広がっていた。


黒い岩の地面には無数の赤い亀裂が走り、そこかしこから白い煙が立ち上っている。

そして山頂の中央、ぽっかりと空いた大きな穴の中にあるのは、グツグツと煮えたぎる火の泉。

今にも噴火してしまいそうな程に、ムクムクと盛り上がるマグマ。

そのほとりに、白くて大きな石碑が立っているのだが……


「これでもかっ!? これでもかぁあっ!??」


何やら大声をあげながら、白い石碑に対して、巨大な鎌を何度も振り下ろしている何者かの姿が見えた。


人型をしたそいつは、全身が毛のないつるんとした赤色で、背には蝙蝠のような黒い翼を持ち、お尻の上からは細長い尻尾が生えている。

そして、後ろ姿でもわかるくらいに、長く鋭い真っ赤な三本の角を、額から生やしていた。


あの石碑はおそらく、俺と勉坐で解読した、五百年前の真実を語る碑文が書かれている大事な石碑だ。

あんなに大きな鎌を、あんなに力一杯振り下ろしたら、石碑が壊れてしまうのでは!? と思ったが、何故だか石碑は無傷のままだ。

どうしてだろうと目を凝らすと、薄っすらとだが、石碑の周りに水色の魔力のオーラがある事に俺は気付いた。


「そんな事しても無駄だぞっ!?」


なっ!? カービィ!??


明らかに怪しい相手に向かって、カービィは平然と声をかけた。

するとそいつは、ピタッと動きを止めて、ゆっくりとらこちはを振り返ったではないか。

その顔は、人ではない……、生き物でもない……

完全なる、悪魔だ。


血のように赤く染まった皮膚に、同じように赤く長い三本の角。

二つある瞳は黒目がなくて真っ白で、口は裂けそうに大きくて細かく尖った歯が無数に並んでいる。

しかし、生き物であれば、そこにあるべきはずの鼻がない。

そして、耳が生えているべき場所には、小さな穴がポコッと空いているのみなのだ。

 つまり、目と口しかない……

かなり異質なその風貌に、俺の全身に悪寒が走った。


危険信号発動! 危険信号発動!!

直ちにここから退避せよ!!!

ピポピポピポー!!!!!


俺の中の危険感知センサーが、大音量で鳴り響く。


「あぁ、お前かぁ~? グノンマルが教えて来た、時の神の使者って奴はぁ~??」


ニンマリと笑いながら、そいつは口から紫色の長い舌を垂らした。


グノンマル? グノンマルって確か、イゲンザ島にいた悪魔サキュバスの名前じゃ……??


「おまいが悪魔ハンニだな!?」


目の前にいる、明らかに気味の悪い相手に対し、恐れる事なくカービィは問い掛ける。


「ハンニハンニハンニハンニ……。どいつもこいつも、人様の名前を呼び捨てにしてくれてよ~お……。自分がこの世で一番偉いとでも思ってんのか? あぁ?? きひひひひっ。哀れなもんだぜ全く……。そうさっ! 俺がお探しのハンニ様だっ!! ギャハハハハッ!!!」


ハンニは、気が狂ったような笑い声を上げた。


「西の村のオマルを操ってるのもおまいだなっ!?」


「操る? かぁ~っ!? んな面倒な事はしねぇさぁっ!!! あいつはなぁ、自分の意思であぁしているのさ。俺は少~し、ほんの少~しだけ、奴を素直にさせてあげたまでよ~お」


「やっぱりそうか……。一度だけ聞くっ! 降参する気はねぇんだなっ!?」


「降参? なんだそりゃ?? おまえ、気は確かか??? この大悪魔ハンニ様を相手に、ちんけなお前に勝機があるとでも思ってんのか???? きひひひひ……、ギャーハッハッハッハッ!!! 見た目通りのお気楽な奴だぁっ!!!! それで時の神の使者とは、笑わせてくれるぜぇえっ!!!!!」


……うぅ、怖い。

なんなんだあいつ、完全に目がいってるし、気も狂ってるぞ。

けどあいつ、どうやら俺には気付いてないみたいだ。

カービィの陰になっていて、俺の事は見えてないんだな。

……よし、これは好都合だ!


「馬鹿野郎っ! おいらは時の神の使者じゃねぇっ!!」


んんっ!? おいカービィ!??

何か余計な事を言うんじゃなかろうなっ!?!?


俺がカービィの言葉に肝を冷やした、その時だ。


「モッモ! カービィ!!」


後方から、ザッザッザッと足音を立てながら、ギンロが俺たちに追い付いた。

その背には、グレコと砂里も乗っている。


「あぁん? ま~た虫ケラが湧いて出……、な……、んだと??」


ギンロの背に乗るグレコを目にするなり、それまで大口開けて笑っていたハンニの様子が一変した。

一瞬、一切の感情を無くした無表情になったかと思うと、次の瞬間、これでもかと言うほどに歯を食い縛り、ギリギリと擦り鳴らしながら、「グルルルル~」という猛獣のような鳴き声を上げ始めたのだ。


「やべっ!? ギンロ、下がれっ!!」


カービィの言葉に、ギンロは背にグレコと砂里を乗せたまま、スッとカービィの後方に回った。


「グルル……、グルルル……」


人型だったハンニは、低い唸り声を上げながら、身体中から白い煙を発し始めた。

両手を地面につけ、赤い皮膚がボコボコと波打ち始めたかと思うと、見る見るうちにその姿は、四本足の魔獣へと変化していくではないか。

身体中を覆う、真っ赤な炎。

尻尾は、先ほど手にしていた鎌と同じ形になり、両手は完全に前足の形になっている。

ただ、顔だけは人型だった時と変わりがなく、世にも奇妙な怪物が、目の前に現れた。

そして……


「グルルァ~、グルルルルル……。グルルァラァア~!!!」


大量のヨダレを垂らしながら、鋭い無数の牙をむき出しにしながら、魔獣と化したハンニは俺たちに向けて、口から大量の黒い炎を吐き出した。


守護アミナ!!!」


杖を振り、呪文を唱えたカービィの前に、ピンク色の巨大な光の盾が現れる。

盾は黒い炎を防ぎ、見事に俺たちを守った。

でも……


「ちっ、略式じゃ駄目だな。魔導書がねぇと、太刀打ち出来ねぇ」


カービィの言葉通り、黒い炎は防いだものの、盾は粉々に砕け散ってしまったのだ。


「モッモ! 降りて戦うぞっ!!」


「あっ!? あいぃいっ!!!」


本当は降りたくないけどぉおっ!


箒を下降させて、カービィと俺の短い足が地面に着いた……、次の瞬間!


「コトコ~……、返せぇ~……、我が心臓を~、返せぇえぇ!!!」


叫び声を上げながら、口からダラダラとヨダレと黒い炎を吐き出しながら、ハンニが此方に向かって突進して来た!!

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