323:本邦初ぅうっ!!??

「何事だっ!?」


騒ぎ立てる者に対し、勉坐が声を上げる。

叫んでいたのはどうやら、村の入り口で見張りをしていたはずの者らしいが……


「西の村が首長! 雄丸がっ!! 戦士の大群を引き連れて、我らが村を襲撃しようとしていますっ!!!」


「なっ!?」


「何だってっ!?」


「なんだとっ!?」


「ポポ!? それは確かポか!? 誰からの情報ポ!???」


騒めき、どよめく鬼達。

そんな彼らの背後から……


「私です!」


女の声が聞こえた。

何やら片方の足を引きずり、男鬼に肩を貸してもらいながら、懸命にこちらに向かうその鬼は……


「あれは確か……。オマルさんの妹の、チカゲさん?」


グレコの言葉に、俺は記憶を遡る。


雄丸の妹、千景……、あっ!? 思い出したぞっ!!!

俺に共食いを勧めてきた、血も涙もないあの千景かぁあっ!?!?


だがしかし、記憶の中の千景と、今目の前にいる千景はかなり様子が違う。

髪や衣服が乱れて、その表情はとても苦しそうだ。

そして、引きずっている足の太腿には大きな斬り傷があり、そこから真っ赤な血が流れ出しているではないか。


「千景っ!? どうしたっ!??」


鬼達の間を掻き分けて、勉坐は慌てて千景に駆け寄った。


「勉坐様、お逃げください! 兄の目的は、東の村の首長……、つまりあなたなのです!!」


「何ぃっ!? どういう事だっ!??」


「私にも、何が何だか……。突然村の男達が、気が狂ったように叫び始めたかと思うと、兄までもが。佐倉が止めようとしたのですが、私を逃すだけで精一杯で……。いつここへ、兄が攻めてくるかわかりませぬ! 勉坐様!! 早く逃げてっ!!!」


涙ながらにそう叫ぶと、千景はフッと気を失った。


「いけないっ! 応急処置だっ!!」


そう言ったのは、白薔薇の騎士団の衛生班班長のロビンズだ。

隣にいたエクリュと共に、倒れた千景の元へと走る。


「オマルさん、そんな……。やっぱり、聖なる泉の始祖のお告げが示していたのは、オマルさんの事だったのね」


グレコは、驚き戸惑いながらも、納得したようにそう呟いた。


「おそらくだけど、その西の村のオマルって奴ら、操られてるんだと思うぜ? 悪魔の中には、属性魔法以外にも、俺のような思操魔法が得意な奴もいるからな」


そう言ったのは、騎士団のメイクイだ。


なるほど、確かに……

悪魔ハンニに操られて、東の村を襲おうと……

いやでも、あの雄丸だよっ!?

とっても強そうでかっこいい、あの雄丸だよっ!??

そんな、何処ぞの悪魔の操り魔法なんかに負けないでよっ!!!


「こうしちゃいられねぇな。早いとこハンニを探し出して、とっちめねぇと!」


カービィはそう言うと、ローブの内側から小さな箒と杖を取り出して、その箒に向けて杖を一振りした。

すると、まるでオモチャのように小さかった箒が、あのヴォンヴォンと煩いジェットエンジン付きの、金属の箒へと早変わりしたのだ。

続けてカービィは、杖をもう一振りして、一人乗りのその箒に、魔法で補助席のようなものを取り付けた。


「モッモ、後ろに乗れっ! ギンロはグレコさんとサリさんを背に乗せて走ってくれっ!!」


「承知っ!」


カービィに指示された俺が、箒にまたがるカービィの後ろ、補助席に飛び乗ると同時に、ギンロは獣化の術を使って、先程よりも数倍大きな体の、青銀の毛並みのフェンリルの姿へと変化した。


「なっ!? なんだっ!??」


「うわぁあっ!?」


「ぎゃあっ!? ばっ、化け物だぁあぁっ!!?」


ギンロの変化に対し、知っていたとはいえ驚く騎士団のみんな。

そして、全く知らなかった鬼達に至っては、恐怖して叫び声を上げる者や、その場を逃げ出す者が多数いるが……

今はもう、そんなのに構っている暇はなさそうだ。


「ノリリア! 後は任せたぞっ!!」


「ポポッ! カービィちゃんっ!! 気をつけるのポゥッ!!!」


ノリリアと言葉を交わしたカービィは、箒のエンジンをヴォンヴォンと鳴らす。

グレコは、他の鬼達同様、ギンロを恐れる砂里の手を引いて、なんとかギンロの背に乗せた。


「行くぞモッモ! しっかり捕まって、振り落とされんなよぉっ!!」


「はっ! はいぃいっ!!」


尻尾のないカービィの丸い背中に、ヒシッ! と俺が抱き着くと……


ヴォンヴォンヴォンヴォン……、ヴォヴォヴォヴォヴォオオーンッ!!!


爆音と七色の煙を上げながら、エンジン付きの箒は発進した。

瞬く間に空へと上った箒の上で俺は、眼下に、グレコと砂里を背に乗せて走り出すギンロを確認した。


「モッモ! 羅針盤使えっ!!」


「えっ!? この状況でぇっ!??」


無茶言うなよっ!?


「馬鹿野郎っ! 方角がわかんねぇだろうがっ!!」


えぇえっ!? 確かにそうだけどっ!!!

でもそれなら、発進する前に確認すれば良かったじゃんかよぅっ!?!?


さほど高さはないものの、ここはもう空の上である。

眼下に広がるのは、まばらに生える木々と、黒くて見るからに硬そうな岩の地面だけ。

落ちれば最後、即死確定である。


こんな状況で手を放せるほど、俺は度胸が座ってませんっ!!!


しかしながらカービィは……


「早くしろぉっ!!!」


怒号にも近い声を上げて俺を急かした。


ひっ!? ガチギレカービィ!??

本邦初ぅうっ!!??


俺は片手をプルプルさせながらカービィの胴体から離し、そろそろと首に下げている望みの羅針盤を確認する。

銀の針は北を指し、金の針は……


「カービィ! 南だっ!! 南へ向かってっ!!!」


「ガッテン承知の助っ!!!!!」


ヴォンヴォンヴォンと爆音を上げ、ジェット部分から七色の光を大放出しながら、空中で急旋回したエンジン付き箒。

俺は再度、カービィのピンク色の体に抱き着いて、向かい風に負けないように、カービィの荒い運転に振り落とされないようにと、ひたすら耐えるのだった。

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