318:私も行きます!!!
「大魔導師カービィよ。そなたにはなんと礼を言って良いか……。喜勇達の命を救ってくれたこと、この勉坐、一生忘れはせぬ。本当にありがとう」
そう言って勉坐は、自分よりも遥かに小さなカービィに向かって、深く深く頭を下げた。
「な~に、いいってことよ! 白魔導師にとって、人助けは息するのと同じくらい当たり前のことさ。礼には及ばねぇよいっ!!」
てやんでいっ! といった雰囲気で胸を張り、自分よりも遥かに大きな勉坐に対し、照れ臭そうにニカっと笑うカービィ。
……その、てやんでいっ! ていうやつ、ちょっと前からやってるけれど、いったい何のブームなのかね?
江戸っ子にでもなったつもりなのかね??
リーラットの楽園を後にし、地下室から出て、カービィ達が喜勇達三人の治療をする地上階へと戻った俺とグレコと勉坐。
そこで待っていたのは、全身に巻かれていたはずの包帯がとれて、呼吸が落ち着き、安らかな寝息を立てる喜勇達三人の姿だった。
ただ、三人の容体は落ち着いてはいるものの、彼らの全身には、火傷の痕のような赤い痣が広がっていた。
先程まで天井にあった白魔法の魔法陣は綺麗さっぱり無くなっていて、更にはインディゴとメイクイの姿が見当たらなくなっていた。
ギンロは部屋中に散らばっている包帯をセッセと集め、部屋の端では砂里が、ホッとしたのか、ぼーっとした表情で座っていた。
「カービィさんのおかげで、何とか火傷の方は治せたのですが……。やはり彼らは、何者かによって呪いを受けたようですね。どのような性質のものかはわかりませんが、今の我々では呪いを解くことは出来ませんでした」
よほど大変な作業だったのだろう、アルパカのようなふんわり毛並みが特徴だったはずのエクリュは、大量の汗で顔の毛が湿り、それが頬にぺったりと貼り付いて……
例えれば、洗濯されて干される前の人形のような、ぺちゃんこな姿になっている。
いつもよりかなりスマートなそのお顔に、俺は含み笑いした。
「呪い……。それは、解けないとどうなるのだ?」
「ん~、はっきりどうなるとは断言できねぇけど、このまま目覚めなかったり、目覚めても記憶を失くしていたり、人格が変わっていたり……。そういう可能性はあるだろうな。もちろん、何も変化がない事もあるかも知れねぇ。だけど、これだけ全身に痣が広がる呪いだ。おそらく、呪いをかけたのは相当の力を持つ相手……。このままにしておくのは危険だな」
勉坐の質問に対し、カービィは真面目に返答した。
「そうか……。その呪いを解く方法とやらはないのだろうか? 三人とも私の大事な手下故、みすみす死なせるような事などしたくはない」
さすが勉坐、上司の鏡だね!
「方法は二つあります。一つは、呪いをかけた張本人を探し出し、呪いの解き方を吐かせる。もう一つは、破呪の方法を見つける事です。ただ後者の方法は、今現在、我々騎士団も調査を行っている段階ですので、具体的な方法はまだありません。前者の、呪いをかけた張本人を探し出すことの方が、現実的に考えて最も良い方法でしょう」
エクリュがそう言った。
呪いをかけた張本人って……?
「おいらの予想では、喜勇達は火山の頂で、悪魔ハンニと対峙したんだろう。かすかだけど、全身に負った火傷から、炎属性の魔力の痕跡が見られたんだ。呪いは悪魔の常套手段だからな、間違いねぇと思う」
出たな、悪魔ハンニめ!
何の罪もない喜勇たちを、こんな酷い目に遭わせるなんてっ!!
許せないっ!!!
……ん? でも待てよ。
喜勇達がやられたって事は、つまり……
「そうすると、その悪魔ハンニとやらはやはり、既に動き始めているという事なのだな?」
「そういう事になるな!」
やっぱりっ!?
こりゃもう、のんびりしている暇はないぞっ!??
「勉坐さん、今すぐ志垣さんのところへ行きましょう! ネフェはきっと、ハンニが動き出した事を感じて、行動を起こしたのよ……。早く、破邪の刀剣を見つけないとっ!!」
「うむ。急ぎ参ろう」
グレコの言葉に、勉坐は頷く。
「モッモ、グレコさん、おいらはここに残る。喜勇達もまだ万全じゃねぇし……、ノリリアもこっちに向かっているようだからな」
「え……? ノリリアがここへ??」
カービィの言葉に、俺はちょっとばかし驚く。
「うん。やっぱり、あの火山の南側の麓にある洞窟は、巫女さんが言ったように、コトコの作った偽物だったらしいんだ。さっきインディゴがノリリア達と交信して発覚した。ミルクの頑張りで結界はなんとか解けたらしいが、洞窟内には何もなかったんだと。今インディゴが、こっちに向かって来ているはずのノリリアを迎えに行っている。メイクイは、雨乞いの祭壇とやらに留まったままのアイビー達を迎えに行った。だから、おいらはここにいて、みんなが集まるのを待つよ。ノリリアに聞きたい事があるからな……。だからモッモ、しばし別行動だ!」
「そっか……。オッケー、わかった!」
頷き合う俺とカービィ。
「ギンロはどうするの? ここに残るの??」
「いや、我はモッモに付いて行こう。その悪魔ハンニとやらが動き出しているのならば、お主を守るのは守護者である我の役目であるからな」
ふん! と鼻息荒くそう言ったギンロ。
その視線は何故か、勉坐にチラチラと向けられている。
まさかとは思うけど……、ギンロ、勉坐にホの字じゃあるまいね?
駄目だよ、ダーラに続いて勉坐にもなんて……
けど良かった。
ギンロが付いて来てくれるなら、かな~り安心だわ。
「待って、私も行きます!」
それまで部屋の隅で座り込んでいた砂里が立ち上がり、声を上げた。
「姉様が求める物を、私も探しに行きます! だって……、たった二人の姉妹なんだもの。たった二人の家族なんだもの!! 姉様を守るのは私。だから私も行きます!!!」
少々疲れた顔をしているものの、砂里の目に迷いはない。
「わかった! 一緒に行こう!! じゃあ……、僕とグレコとギンロと勉坐と砂里。この五人で、姫巫女様のお住まいに行ってくるね。用事が終わり次第、まっすぐ帰ってくるから。ここは頼んだよ、カービィ!!!」
「了解した! 行って来いっ!!」
こうして俺たち五人は、カービィとエクリュを勉坐の家に残し、姫巫女様のお住まいに向かった。
道の途中で、シャンシャンと鈴を鳴らしながらこちらに向かってくる、その背に桃子が入っているのであろう隠し箱を乗せた巨大アンテロープと、巫女守り達の行列に出くわした。
どうやら今から、雨乞いの祭壇へと向かい、雨乞いの儀式を始めるらしい。
何か声を掛けようかとも思ったが……、あちらが足を止める気配はなく、声を掛けていい雰囲気でもなかったので、やめておいた。
桃子……
ついさっきまで一緒にいたのに、なんだか急に遠い存在になったな……
もしかしたら、志垣もこの行列の中にいるのでは? と思い、勉坐が行列の最後尾の巫女守りの者を捕まえて尋ねてみるも、志垣は姫巫女様のお住まいに留まっているとの事だった。
姫巫女様御一行の後ろ姿を、なんとなく寂しい気持ちで見送って……
俺たちはまた歩き出した。
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